研究課題
敗血症では、宿主が細菌感染に対して反応することにより、大量のサイトカインが産生され、多臓器不全や全身性のショックを引をき起こす。しかし敗血症はいまだに有効な治療法がなく、先進国でも致死率が高い疾患である。我々はこれまでに、敗血症マウスモデル (盲腸結紮穿刺 : cecal ligation and puncture, CLP) を用いた研究により、ヒト生体防御ペプチドLL-37をCLPマウスに投与すると、敗血症の症状を軽減させること、また、好中球由来の細胞外小胞 (エクトソーム:大きさ200 nm以上) が増加することを明らかにした。そこで我々は、LL-37が好中球を刺激して、敗血症の病態を改善させるようなエクトソームを放出させるのではないかという観点からエクトソームの機能を解析している。今年度の研究によって、マウス骨髄から単離した好中球をLL-37で刺激すると、好中球のLL-37受容体であるFPR2 (formyl peptide receptor 2) およびCXCR2 (ケモカイン受容体) を介して、エクトソームの放出が促進されることがわかった。また、このエクトソーム放出は、Ca2+ シグナル、calpain (Ca2+-dependent cysteine protease) 、ROCK (Rho-associated protein kinase) に依存していることがわかった。さらに、好中球をLL-37で刺激した時に放出されるエクトソームをCLPマウスに投与すると、生存率の向上が見られ、また、この時に、血液中および腹水中の細菌数が減少していた。さらにCLPマウスの各臓器の炎症状態を評価したところ、特に肺において顕著な炎症性細胞の浸潤および組織内出血が観察されたが、好中球から放出されたエクトソームをCLPマウスに投与すると、肺の炎症反応が軽減されることがわかった。
3: やや遅れている
2022年4月に、保健医療学部(本郷・お茶の水キャンパス)から医療科学部(浦安・日の出キャンパス)に異動し、研究環境が変わったために、研究がやや遅れている。
今年度は、敗血症モデルにおいてLL-37によって放出された細胞外小胞の中でも、大きさが200 nm以上のエクトソームの機能解析を敗血症モデルであるCLPマウスを用いてin vivoで行った。また、LL-37による好中球からのエクトソーム放出機構についてin vitroで解析した。その結果、LL-37刺激によって好中球から放出されたエクトソームがCLPマウスの病態を改善すること、また、LL-37が好中球のFPR2(formyl peptide receptor 2) およびCXCR2 (ケモカイン受容体) に作用して、Ca2+ シグナル、calpain (Ca2+-dependent cysteineprotease) 、ROCK (Rho-associated protein kinase) に依存してエクトソームを放出することがわかった。しかし、LL-37をCLPマウスに投与すると、大きさが約100 nmのエクソソームも増加することから、今後、エクソソームの敗血症における役割について解析する必要がある。
2022年4月に、保健医療学部(本郷・お茶の水キャンパス)から医療科学部(浦安・日の出キャンパス)に異動し、研究環境が変わったために、研究がやや遅れたために次年度使用額が生じた。次年度使用額については、研究遂行のために次年度、有効に使用する予定である。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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