本課題の目的は、トキシンーアンチトキシン(TA)系が遺伝子の水平伝播を抑える可能性を検証し、その抑制メカニズムを明らかにするものである。その成果は、薬剤耐性遺伝子の水平伝播により拡大する薬剤耐性菌の蔓延を抑える対策に繋がることが期待される。本年度は3つの研究計画全てに取り組んだ。 計画①「形質導入に対するTA系の抑制作用を明らかにする」では、これまでに、大腸菌K12株が持つTA系が、溶原ファージの誘発を抑制するが、溶原化は抑制しないことを明らかにした。今年度は、TA系が誘発を抑制する分子機構の解明に取り組み、TA系のトキシンが誘発時に活性化して大腸菌の増殖を阻害することで、産生されるファージ数が減少し、誘発が抑えられる可能性が強く示唆された。この結果は、今年度から採択された科研費基盤研究C「新規の抗ファージ機構が薬剤耐性菌の拡大を抑える」の着想をもたらした。 計画②「形質転換及び接合に対するTAの抑制作用を明らかにする」では、大腸菌のRnlA-RnlB TA系がプラスミドの形質転換効率を約1/3に抑えることを明らかにした。その分子機構を解明する実験の結果、形質転換時に、TA系のトキシンが活性化して大腸菌の増殖を阻害することで、形質転換効率が減少する可能性が示唆された。接合に対するTAの作用については、接合の実験系の確立ができなかったため、実験が実施できなかった。 計画③「TAを活性化するペプチド核酸が水平伝播を抑える物質として機能するかを検証する」については、本実験の基盤となるRownickiらの結果(MazEアンチトキシンのmRNA翻訳開始領域に結合するアンチセンスDNAを用いて、MazEの翻訳を抑制し、MazFトキシンを活性化する)の再現性を試みたがうまくいかず、現在実験系の構築を検討している。
|