研究課題/領域番号 |
20K07502
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研究機関 | 新潟薬科大学 |
研究代表者 |
西山 宗一郎 新潟薬科大学, 応用生命科学部, 准教授 (30343651)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 走化性 / Clostridium属細菌 / スポロゲネス菌 / ボツリヌス菌 / 偏性嫌気性菌 |
研究実績の概要 |
本研究課題では偏性嫌気性菌Clostridium属細菌の走化性能の解析に取り組んでおり,昨年度までにボツリヌス菌の類縁菌でありながら毒性を産生しないスポロゲネス菌を用い,走化性能の簡便な解析法である軟寒天培地上での遊走を観察するスウォームアッセイの条件最適化と,走化性受容体の遺伝子クローニング及び大腸菌走化性受容体とのキメラ受容体の構築による大腸菌再構成系での機能解析を行ってきた.今年度は以下の解析を行った. まず従来のケミカルインプラグ法の改善を目指した.ケミカルインプラグ法は誘引・忌避物質の探索のための手法であり,スウォームアッセイと候補物質を含む寒天プラグを組み合わせた解析系である.しかし寒天プラグ由来と考えられる水分の滲出が起こること,また操作が非常に煩雑であることが課題であった.この課題を解決するために新たにペーパーディスク法を考案した.この方法では細菌の薬剤感受性試験に用いられる円形濾紙(ペーパーディスク)を寒天プラグの代わりに用いるもので,種々の条件検討の結果,従来法の結果が再現可能であることが確認され,水分の滲出や操作の負荷は大幅に軽減された. また今年度から本来のターゲットであるボツリヌス菌の解析に着手した.スポロゲネス菌で得た条件検討の結果をベースとして用い,希釈した標準培地でボツリヌス菌のスウォームの観察に世界で初めて成功した.毒素型A-Fまでの菌株を試し,そのほとんどが運動性・走化性を示した.スウォームリングの形成パターンは同じ毒素型であっても株によって多様性が見られ,菌株によって走化性能に相当のバリエーションがあることが示唆された. 別途スポロゲネス菌・ボツリヌス菌を同時に植菌してスウォームさせた実験では,ボツリヌス菌がスポロゲネス菌を忌避する傾向が見受けられた.この現象について探究を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように今年度も妥当な進捗があった.今年度から本課題のメインターゲットであるボツリヌス菌の解析に着手したが,スポロゲネス菌を用いた過年度の研究成果をフレームワークとして活用し,順調な進展を得られたことは大きい.今後もスポロゲネス菌の解析を先行して行い,足場を固めつつボツリヌス菌への適用を進めていきたい.他方,ボツリヌス菌はスポロゲネス菌の類縁菌ではあるが,スウォームのパターンや培地の栄養条件等において異なる点も若干見受けられ,ボツリヌス菌に特化した解析のための最適化が必要と考えられる.興味深いことに,同じストック由来であっても,運動性を示す菌と示さない菌がおよそ50:50で存在することが複数の菌株で見出されており,運動性制御における何らかの(おそらくは可逆の)スイッチ機構の存在が示唆された.ボツリヌス菌において,このような運動性のスクリーニングが行われた報告はなく,見逃されていた可能性が高い.走化性アッセイの手法についても上述のペーパーディスク法の考案により,走化性物質スクリーニングが大幅に効率化された.またボツリヌス菌のスウォームについて他の菌と1枚の平板に同時接種することで,相互の干渉が観察可能であることを見出した. 以上のことから,本採択課題の研究の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究対象の本丸であるボツリヌス菌解析を中心に解析を続ける一方,スポロゲネス菌を用いた予備的な条件検討も並行して行っていく.走化性物質として,non-proteinogenicなアミノ酸や種々の糖,有機酸等をスクリーニングの対象とする.有機酸については先行してスクリーニングを開始しているが,副次的に酸性環境からの忌避行動,すなわち負のpH走性が見出されており,この解析も継続していく.上述したボツリヌス菌・スポロゲネス菌で新たに見出された細菌同士のスウォーム干渉については,今年度開発したペーパーディスク法を用いて他のClostridium属細菌や種々の腸内細菌の影響も調べる.乳児ボツリヌス症におけるボツリヌス菌の腸内定着メカニズムの一端を解明できるかも知れない. 前年度までに確立したキメラ走化性受容体を用いた大腸菌再構成系についても,既存のキメラ受容体の解析を継続するとともに,状況に応じて新規キメラ受容体の構築・解析を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題に使用する実験機器に関する測定用機材の校正が人手不足のため想定外に時間を要し,その料金が不確定であったため保留した(結局今年度中の校正は叶わなかった).次年度にはその機器の校正に使用するとともに,残額は次年度(最終年度)の実験のための消耗品費に充てる予定である.
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