研究課題/領域番号 |
20K07504
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
小林 秀丈 広島国際大学, 薬学部, 講師 (70441574)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Aeromonas / 糖鎖認識 / 腸管上皮 |
研究実績の概要 |
スフィンゴ糖脂質(GSL)は糖鎖が細胞表面に露出し,菌体や細菌毒素の受容体としての機能が報告されている.本研究ではGSLの糖鎖構造が,腸管感染細菌であるAeromonasによって認識され,感染症の進展に寄与しているのかについて解析を行う. 本年度は以下の研究項目について検討した.(1) ABO糖鎖認識Aeromonas株のスクリーニング (2)ABO糖鎖認識Aeromonas株のゲノム解析 (3) 糖鎖認識に関わる責任遺伝子の同定 (1) 昨年度に引き続き,ABO糖鎖認識Aeromonas株のスクリーニングを進め,糖鎖認識株の選抜を目指した.その結果,O糖鎖発現細胞に有意に結合する菌株8株,B抗原に結合する菌株5株をそれぞれ見出した. (2) AeromonasのABO糖鎖認識に関わる遺伝子を同定する目的で,糖鎖認識が認められた菌株のゲノム解析を実施した.認識する糖鎖が異なる種々の菌株より染色体DNAを精製し,次世代シーケンサーNovaSeq 6000により配列情報を取得した.得られた配列情報を解析し,約4.5 Mbpのドラフトゲノムを得ることができた. (3) 上記で得られたドラフトゲノム情報より,菌株間で保有する遺伝子を比較し,糖鎖認識に関わる責任遺伝子を推定した.今後,推定された遺伝子(13種類)をクローニングし,それぞれの遺伝子の欠損株を作製する予定である. Aeromonasによる感染症はしばしば重症化することが知られており,菌が特定の糖鎖構造を認識して組織移行性を高めている可能性が考えられる.本研究で得られたAeromonasの糖鎖認識に関わる遺伝子より,本菌の糖鎖認識機構ならびに感染症の重症化機構の解明につながることが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GSLの認識がAeromonas感染症の発症に寄与しているかについて解析を行う目的で,昨年度樹立した異なるGSLを発現する細胞株へ菌を感染させ,接着能を解析した.ヒトの感染症に関わるAeromonas約60菌株をO糖鎖,A抗原,B抗原をそれぞれ発現する細胞に感染させた.感染後2時間後に非結合菌を洗浄除去した後,パラホルムアルデヒドにより細胞を固定した.細胞に接着した菌は,菌に特異的な蛍光プローブを用いて染色し,共焦点レーザー顕微鏡で検出した.単位面積当たりの検出された蛍光数をカウントし,接着菌数を算出した.その結果,O糖鎖発現細胞に有意に結合する菌株8株,B抗原に結合する菌株5株をそれぞれ見出した.そこで,これらの菌株より染色体DNAを精製し,ゲノム解析を実施した.遺伝子の解析には,次世代シーケンサーNovaSeq 6000により約1Gbpの配列情報を取得した.取得した配列情報を解析し,約4.5 Mbpのドラフトゲノムを得た.各菌株のゲノムが保有する遺伝子の比較にはRoaryを用いた.その結果,B抗原を発現する細胞に接着が認められた菌に特有の遺伝子(約400種)の中から菌体表面に局在するタンパク質をコードする遺伝子(13種)を同定した.今後,上記で明らかにした遺伝子のクローニングならびに遺伝子を欠損させた菌株を作製してGSL認識への影響について解析する.
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今後の研究の推進方策 |
同定された遺伝子がGSLの認識に関わるのかを調べる目的で,目的遺伝子のクローニングとその遺伝子を欠損させた菌株の作製を行う.作製した菌株の細胞への接着能を解析し,GSL認識に関わる責任遺伝子の同定を試みる.さらに,GSL認識に関わる遺伝子が同定されれば,次に菌の上皮バリア透過性について調べる.野生型菌株と遺伝子欠損菌株をそれぞれトランスウェルに培養した細胞に感染させて菌の透過性や膜電気抵抗値の変化を計測する.これらの実験より,菌のGSL認識と上皮バリア透過機構について明らかにできるものと考えている.本研究でAeromonasのGSL認識機構が明らかになれば,次に菌体外毒素の作用がGSLの種類によって変化するのかについても解析する.種々のGSL発現細胞に菌体培養上清を添加して細胞傷害性について解析を行う.発現するGSLにより細胞毒性が変化すれば,本菌の菌体外毒素の作用がGSLにより影響を受けることが明らかになる.ここまでの結果を総括し,Aeromonas感染症におけるGSL認識の関係ついて考察を行う.さらに,Aeromonasの認識糖鎖の構造が明らかになれば,特定の糖鎖を固定化した樹脂を作製し,菌を除菌できる装置の開発を試みる.Aeromonas感染症が重症化した場合に問題となる敗血症の治療において,本装置を透析装置に連結させ用いることで血液内の菌を速やかに除くことができると期待している.また,Aeromonasは魚類感染症の原因菌であり,養殖魚や観賞用の魚への病気が問題となっている.本装置を水循環装置へ連結させて,水中の菌の除菌にも応用できる可能性もあり,そういった分野への貢献が期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の価格が変更されたため、一部残金が生じた.次年度の物品費として適切に使用する計画である.
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