スフィンゴ糖脂質(GSL)は菌体や細菌毒素の受容体としての機能が報告されている。Aeromonasはヒトに経口感染し腸管感染症を引き起こす病原細菌であるが、しばしば敗血症や軟部組織壊死などの全身性の感染症を引き起こすことでも知られている。この様な全身感染への進展には菌が腸管感染病巣から組織へ移行することにより引き起こされると考えられる。本研究では、腸管表層へのAeromonas感染時において、菌が特異的にGSLを認識して感染の進展に寄与している可能性を想定し以下の検証を試みた。(1) 異なる糖鎖抗原を産生する細胞に対する菌の感染による細胞生存に及ぼす影響 (2) 分泌型糖鎖抗原存在下における菌の接着率の及ばす影響 (1) ABO式血液型の決定因子である糖鎖をそれぞれ産生する腸管上皮細胞へ種々Aeromonas菌株を感染させて、異なる糖鎖を産生する細胞細胞生存率を比較した。その結果、異なる糖鎖抗原を産生する細胞間における細胞生存率には変化をがないことが明らかになった。このことから、今回使用した細胞における糖鎖抗原の違いはAeromonasによる細胞障害には影響しないことが推察される。 (2) 分泌型糖鎖抗原存在下における菌の接着への影響を解析する目的で、腸管上皮細胞に糖鎖抗原を添加して菌の細胞への接着率を測定した。その結果、O型の糖鎖を共存させた場合にはいくつかの菌株で接着率の低下が観察された。このことから、いくつかのAeromonas菌株ではO型の糖鎖を認識して細胞に結合する可能性が推察される。 GSLはヒトの中でも個体差があるのに加えて、疾病などでも変化することが知られており、菌が特定の糖鎖構造を認識して組織移行性を高めているのではないかと考えている。今後、見出した菌株の遺伝子解析を実施することで、GSL認識に関わる菌の因子の同定を目指す予定である。
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