研究課題
本研究の対象である単純ヘルペスウイルスはヒトに感染すると神経に潜伏し、再活性化を繰り返すことによって終生に渡り疾患を引き起こし続ける。HSVは宿主細胞に侵入後核内で、前初期遺伝子、初期遺伝子、後期遺伝子という3種の遺伝子群をカスケード状に発現する。前初期遺伝子の発現はHSVのウイルス粒子中に含まれるVP16が前初期遺伝子群のプロモーターに結合し、活性化することによって引き起こされる。その一方で、前初期遺伝子から初期遺伝子以降の発現への移行機構については不明な点が多い。本研究の開始以前に、申請者らは感染細胞の遺伝子発現の不均一性からHSVの遺伝子発現制御機構を解明することを目的として、HSV感染細胞の1細胞RNA-sequenceを行った。その結果、細胞内金属イオンがHSVの遺伝子発現の移行段階に関与していることが示唆されていた。令和3年度はHSV遺伝子発現制御因子(Pr)の定常発現細胞を作製し、その細胞にPrを欠損させたHSVを感染させることで、令和2年度にデータを得ることができなかった当該細胞内金属イオン枯渇時のHSV遺伝子発現制御因子PrのChIP-assayを実施した。その結果、Prが当該細胞内金属イオン依存的にウイルスゲノムに結合することが明らかになった。令和3年までに得られた結果によって、当該細胞内金属イオンはPrの活性を制御することによりウイルス遺伝子発現の移行段階に関与していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度はHSV遺伝子発現制御因子(Pr)の定常発現細胞を作製し、その細胞にPrを欠損させたHSVを感染させることで、令和2年度にデータを得ることができなかった当該細胞内金属イオン枯渇時のHSV遺伝子発現制御因子PrのChIP-assayを実施した。その結果、Prが細胞内金属イオン依存的にウイルスゲノムに結合するというデータを得ることができた。
今後はHSVの病態発現における当該金属イオンの役割をマウスモデルを用いて解析していく。具体的には当該金属イオンによる活性制御部位を消失させた変異Prを保持する組換えHSVを作出し、マウス脳内接種時の病原性を野生型ウイルスと比較する。
当初計画では令和3年度までに動物実験を実施する予定であったが、ChIP-assayに使用する細胞の作製に研究のエフォートが集中した。その結果、動物実験を令和4年度に後ろ倒しした。
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Journal of Virology
巻: 96 ページ: e01704-21
10.1128/JVI.01704-21
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