研究課題/領域番号 |
20K07512
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
神奈木 真理 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (80202034)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | HTLV-1 / 自然免疫 / 腫瘍 / 炎症 / ATL / EZH2 / Lenalidomide |
研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)とHTLV-1随伴脊髄症(HAM)を起こす。ATLは悪性腫瘍でありHAMは炎症性疾患である。ウイルス側には疾患特異的な違いが無く、同じウイルスが全く異なる疾患をひきおこす機序には宿主の要因が関与すると考えられる。本研究ではその鍵となる宿主因子の同定を目的とした。我々はこれまでに、炎症抑制シグナルを伝えるIL-10-STAT3系の活性化が細胞増殖を助長することを示し、HTLV-1感染における腫瘍性疾患と炎症性疾患を分ける要因に自然免疫応答が関与していることを示唆してきた。本年度はHTLV-1感染細胞内の増殖シグナルに対するアプローチとして、免疫調節薬Lenalidomideの影響を解析した。Lenalidomideは再発・難治ATLの治療薬としてすでに承認されているが、その機序には不明点が多い。いくつかのHTLV-1感染細胞株においてLenalidomideは細胞増殖抑制効果を示し、これはIL-10-STAT3シグナルの抑制を伴っていた。Lenalidomideは多発性骨髄腫においてCereblonと結合し、転写因子Ikaros, Aiolosを減少させcMyc, IRF4を抑制することが報告されている。今回、HTLV-1感染細胞株(HUT102)においてLenalidomideは同様の効果を示すとともにSOCS3の増加ならびにEZH2の減少をもたらした。さらに、EZH2阻害剤はLenalidomideの効果を一部再現したことから、Lenalidomideの抗腫瘍効果にはEZH2阻害が関与することが示唆された。以上から、HTLV-1感染細胞の細胞増殖機序にはEZH2を介したエピジェネティックな調節機構が関与すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既にATL治療薬として使われているLenalidomideのATL細胞抑制機序には不明な点が多く残されていたが、今回これにEZH2が関与していることを見出した。これまでに多発性骨髄腫に対するLenalidomideの作用機序については多くの報告があるが、EZH2への関与は報告が無く、今回初めて明らかになった。EZH2はヒストンメチル化を介して癌化を促進することが知られており、EZH2阻害剤は種々の癌に対して治療に使われている。今回の発見は抗腫瘍効果を持つ2つの薬剤、LenalidomideとEZH2阻害剤、が共通の作用機序を介する可能性を指摘したものであり、HTLV-1感染症だけに止まらない重要な所見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度のHDAC阻害剤を用いた研究結果と今年度のLenalidomideを用いた研究結果から、エピジェネティックな変化によりHTLV-1感染細胞の性格が方向づけられていることが推測される。IL-10-STAT3シグナルはHTLV-1感染細胞が炎症か増殖かどちらかの性状を獲得する分岐シグナルの一つとして重要であるが、その背後にエピジェネティックな調節機構の存在が示唆され、周囲の自然免疫担当細胞の影響も考えられるため、今後、感染細胞と自然免疫の両面から解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は新型コロナウイルス流行により研究活動が制限されたため経費の執行が大幅に遅れたが、今年度はほぼ計画通りに進行した。次年度は研究代表者の本拠地が変わるため、実験システムの移動作業を行う必要があるが、HTLV-1感染細胞の炎症と増殖を分ける本質についてさらに解析を進め、全額使用予定である。
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