研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)とHTLV-1随伴脊髄症(HAM)を起こす。ATLは悪性腫瘍でありHAMは炎症性疾患である。ウイルス側には疾患特異的な違いが無く、これらの疾患をひきおこす機序には宿主の要因が関与すると考えられる。ATL患者とHAM患者由来の感染細胞株を用いた以前の研究において、我々はIL-10-STAT3経路が感染細胞の増殖性に重要であることを報告した。本研究ではATLとHAMを分ける機序の解明を目的として、IL-10-STAT3経路の調節因子の探索と機序解析を行った。本課題の初年度(2020年度)には、IL-10を高産生するHTLV-1感染細胞の低免疫原性がヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤処理により改善されることを示した (Cancer Sci, 2021)。2年目には、免疫調節薬として知られるLenalidomideの影響を調べた。Lenalidomideは再発・難治ATLの治療薬としてすでに承認されているがその機序には不明点が多い。解析の結果、LenalidomideはHTLV-1感染細胞株(HUT102)のSTAT3経路を抑制することが分かり、さらにヒストンのメチル化因子であるEZH2を減少させることが判明した(BBRC, 2021)。EZH2への影響は予期していなかった所見であり、3年目はさらにIL-10-STAT3経路とEZH2の関係に関して検討を加え現在も進行中である。本課題で、ATLに一定の効果を示すLenalidomideがSTAT3経路を抑制したことは、STAT3経路がHTLV-1感染から腫瘍性疾患への進展に重要であることを裏付けており、さらにLenalidomideがエピジェネティックな作用を持ち、これがHTLV-1感染細胞のSTAT3経路の制御に関与する可能性が新たに示唆された。
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PLoS Pathogens
巻: 19 ページ: e1011104
10.1371/journal.ppat.1011104