研究実績の概要 |
HCV感染患者の肝に脂肪化が発症することは臨床上よく知られ、HCV感染による脂質代謝系の変化が詳細に解析されてきた。しかし、HCV感染初期に肝細胞で脂肪滴(Lipid droplet, LD)が肥大化し、肥大脂肪滴が維持される分子機構は不明である。本研究では、以下の3点について解析を行う。1) 脂肪滴肥大化維持に必要なウイルス因子および宿主因子の同定、2) 脂肪滴肥大化維持に必要な分子機構の解明、3) 脂肪滴肥大化抑制法の開発。研究方法はHCV感染培養系、HCV RNAレプリコン系、プラスミド発現系を用い、HCV NS3/4Aプロテアーゼによる脂肪滴調節因子SPG20の切断とアディポフィリン(ADRP)量の変化と脂肪滴肥大化の維持の関連について解析する。さらにDAA製剤などの薬剤による脂肪滴縮小効果を解析した。 2020年度から2022年度の結果は以下の通りである。1. HCV感染によるJNK活性化とAIP4のリン酸化および活性型変換の解析. 2. HCV感染によるE3リガーゼAIP4によるADRPユビキチン化および発現量の解析. 3. 脂肪滴周囲蛋白質(SPG20, TIP47, ADRP)およびユビキチンリガーゼAIP4によるADRPユビキチン化機構の解析を行った。その結果、HCV JNK活性化によりAIP4のリン酸化、活性化が引き起こされること、ADRPがユビキチン化を受け蛋白質量が減少すること、しかし、脂肪滴周囲のADRP量は減少しないことを明らかにした。HCV感染細胞の免疫蛍光染色から、ADRPは主にLD周辺に局在し、細胞質ADRPは減少していることが明らかになった。以上のことから、HCV NS3/4AプロテアーゼがSPG20を特異的に切断し、Itchを介したLD関連ADRPのユビキチン依存性分解を阻害し、大きなLDの形成が促進されると考えられた。
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