研究課題/領域番号 |
20K07516
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
櫻井 康晃 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (00818338)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | CCHFV / シュードウイルス / 細胞侵入過程 / 表面糖タンパク質 / 病原性 / 侵入阻害剤 |
研究実績の概要 |
本研究では、最近我々が開発した水疱性口炎ウイルス(VSV)由来の粒子核とクリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV)由来の表面糖タンパク質を持つシュードウイルスを用いて、表面糖タンパク質依存的な細胞侵入過程を要因とする病原性発現機序を解明することを目指す。その中で2020年度は、種々のウイルス株由来の表面糖タンパク質を持つシュードウイルスを作製し、それらの感染効率が異なる細胞株を同定することを目標としていた。 既に作製に成功していたシュードウイルスは、ヒトに対して高病原性であるHoti株由来の表面糖タンパク質をもつものであった。そこで、ヒトへの病原性が不明確なIbAr10200株由来の表面糖タンパク質を持つシュードウイルスについても、上記で開発した手法により作製に成功した。また、ヒトに対して病原性が低いAP92株由来の表面糖タンパク質を発現するプラスミドも作製中である。 更に、今後本シュードウイルスを用いて種々の解析を行うため、化合物スクリーニングにも応用出来るように感染実験系の最適化を行った。96ウェルプレートとHuh7細胞を用いたアッセイにおいて、感染細胞と非感染細胞との比較においてZ factorが0.71、既知の感染阻害剤であるbafilomycin A1で処理した感染細胞と非処理の感染細胞との比較においてZ factorが0.73との結果となった。いずれのZ factorも0.5以上であることから、スクリーニングにも使用可能な系への最適化に成功した。実施例として、その系を用いてFDA承認薬2655化合物のスクリーニングを行った結果、5 uMにて80%以上感染を抑制する化合物を37種類同定した。従って、上記のアッセイ系は大規模解析にも有用な系であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では2020年度には、異なるウイルス株由来のシュードウイルスの感染効率が異なる細胞種を同定することを予定していた。しかしながら、年度を通して常に新型コロナウイルス対応を行っていたことにより、低病原性のAP92ウイルス株由来のシュードウイルスの作製までには至らず、種々の細胞での検討は未だ出来ていない。しかし、IbAr10200株由来のシュードウイルスの作製は完了しており、かつスクリーニングが可能なようにアッセイ系の最適化も出来たため、今後研究を円滑に進めていく土台は構築出来た。また、独自に開発したシュードウイルスを用いた系の実施例として行った薬剤スクリーニングにより、CCHFVの新規侵入阻害剤を同定しており、それまでに得られていた結果と併せて論文発表出来る形になりつつある。 以上より、新型コロナウイルス対応のために当初計画していた実験の多くを行うことは出来なかったが、本研究の目的を達成する上で不可欠な複数のステップをクリアすることが出来たため、本研究計画はやや遅れていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、低病原性のAP92株由来の表面糖タンパク質を持つシュードウイルスの作製を行う。そして、既に作製に成功している高病原性のHoti株や病原性が不明確のIbAr10200株由来のシュードウイルスと共に、種々の細胞での感染効率を比較解析し、ウイルス間で異なる感染効率を示す細胞種を同定する。ここで、最近ダニから分離されたウイルスが、ヒト細胞に極端に感染しにくく、それが細胞侵入過程に起因することが示唆された。そこで、このウイルス由来の表面糖タンパク質を持つシュードウイルスも比較解析の対象とし、更にヒト細胞だけでなく、ダニ細胞における感染効率も検討する。 その後、各ウイルス株由来の表面糖タンパク質の一部を他のウイルス株由来の表面糖タンパク質の相同領域に組み換えた種々のキメラタンパク質を作製し、それらを持つシュードウイルスの感染効率を上記で同定した細胞種において比較解析することで、感染感受性の違いを決定する表面糖タンパク質内の領域を同定する。 更に、2020年度に開発したシュードウイルスを用いたスクリーニング系を活用し、多数の標的既知の化合物のスクリーニングを行い、高病原性株と低病原性株由来のシュードウイルスの感染効率の違いを解消する化合物を同定する。その標的分子が病原性の違いに関わる宿主因子であると考えられ、更に分子生物学や細胞生物学的手法により詳細な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成遺伝子の送料を異なる予算で処理したため、差額分が残ったため。このために生じた次年度使用額は、再度研究計画に入っている遺伝子合成に使用する予定である。
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