研究課題/領域番号 |
20K07517
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
門出 和精 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (70516137)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | HERV-K / SOX2 / iPS cells / retrotransposon |
研究実績の概要 |
ヒト内在性レトロウイルス(HERVs)はヒトゲノムの約8%を占めており、HERVsのレトロトランスポゾン活性について注目されている。HERVsは発生初期で生体にとって重要な役割を担うようになった。例えば、HERV-W Envは胎盤形成、HERV-Kは外来性ウイルスの感染阻止に関わっている 。つまり、HERVsはヒトに適応する間に、ヒトにとって欠かすことのできない存在に変化したと考えられる。また、データベースにない未知のHERV-Kがヒトゲノムに発見されたことから、感染性の残っているHERV-Kが現存する可能性について注目された。ヒト間で異なるHERV-Kが存在する理由として遺伝子多型が考えられるが、内在性レトロウイルスが化石化していない可能性も考えられる。しかし、HERV-Kにレトロトランスポゾン活性が残っており、宿主ゲノムを転移するかについては明らかとなっていない。 本研究では、in vitro実験系によりHERV-Kレトロトランスポジション機構について詳しく解明する(計画1)。また、iPS細胞を多検体用意し、HERV-Kがゲノムを転移する頻度、近傍遺伝子への影響について解析する(計画2)。さらに、HERV-Kレトロトランスポジションを阻止する化合物を探索するシステムを確立することを目的とする。初年度は、① HERV-Kレトロトランスポゾン機構の解明、② IPS細胞でのHERV-Kのゲノム転移について検討を行った。 HERV-Kをin vitroの系で培養できれば、HERV-Kの内在化機構やHERV-K関連疾患を解析する基礎的研究となるだけでなく、レトロトランスポゾンの阻止薬剤の探索が可能となる。またHERV-Kが転移したiPS細胞を簡易的にスクリーニングできる本研究手法は再生医療の向上に貢献することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①HERV-Kレトロトランスポゾン活性を定量するためのレポーターとして発光遺伝子、薬剤耐性遺伝子、蛍光遺伝子を用意するが、それぞれの遺伝子にイントロンを挿入し、スプライシングによって遺伝子ができ、逆転写、インテグレーションの過程を経て、レポーターが発現するように設計を行った(PNAS under review)。しかし、レトロトランスポゾン活性が低いためデータがばらつくことがわかった。HERV-Kコンストラクトに様々な変異を導入したが、どれも活性を上げるには至らなかった。そこで、細胞内にレトロトランスポゾン制御因子が存在することを考え、shRNAライブラリーを用いて制御因子のスクリーニングを行った。現在、その制御因子について詳しく解析を行っているが、進捗状況は予定より遅れている。 ②繊維芽細胞とその細胞から樹立したiPS細胞のDNAをそれぞれ回収し、HERV-Kのインテグレーションサイトを次世代シークエンスにより網羅的に解析を行った。解析の結果、繊維芽細胞でデータベースと一致する236種類のHERV-Kインテグレーションサイトの存在を確認した。更にデータベースに存在しない提供者固有のHERV-Kインテグレーションサイトを4種類発見した。また、iPS細胞樹立後に継代を続けることで、3種類の新規HERV-Kインテグレーションサイトが出現することを発見した(PNAS under review)。次世代シークエンスで同定したHERV-Kインテグレーションサイトについては、PCRで増幅後、Sanger sequencingにより再現性を確認した。これらの新規インテグレーションサイトは、長期間維持されることを確認されなかったため、新規インテグレーションにより細胞の成長が遅くなるか、細胞が死んだ可能性が考えられる。ここまでの進捗状況については順調である。
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今後の研究の推進方策 |
計画1 in vitro実験系によりHERV-Kレトロトランスポジション機構について詳しく解明する。 shRNAライブラリーを用いた実験で、HERV-Kレトロトランスポジションの制御因子を同定する。この制御因子をknockoutした細胞株を用いて、HERV-Kのレトロトランスポゾン機構について詳しく解析を行う。蛍光標識したウイルスタンパク質、ウイルスRNAの局在を共焦点レーザー顕微鏡で観察し、Core形成から逆転写、uncoating、インテグレーションまでのそれぞれのステップが細胞内のどこで行われているかを解明する。また、同定された制御因子がどのようにレトロトランスポジションを制御するかについて検討を行う。HERV-Kのin vitroで培養系を確立し、レトロトランスポゾン阻止薬剤の探索を可能とすることを目指す。 計画2 iPS細胞を多検体用意し、HERV-Kがゲノムを転移する頻度、近傍遺伝子への影響について解析する。 本研究結果から、iPS細胞のレトロトランスポジションを解析するためには、提供者の線維芽細胞とiPS細胞をペアで揃えて比較する必要があることが示唆された。そこで、共同協力者である江良択実教授と連携し、検体サンプルを収集する。それぞれのサンプルDNAから、iPS細胞での新規HERV-Kインテグレーションサイトを同定する。各提供者のiPS細胞におけるHERV-Kのゲノム転移の頻度について明らかにする。また、HERV-Kインテグレーションサイト近傍の宿主遺伝子に及ぼす影響を検討する。近傍に位置する遺伝子mRNA の発現量の変化についてはマイクロアレイで解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ流行による緊急事態宣言により、学会参加が困難となり、旅費を使用する機会がなかった。また、海外ではコロナによる自宅勤務が一般的となり、論文査読に時間がかかり、論文掲載までには至らなかったため、出版費も発生しなかった。さらに、注文した試薬の中には、半年以上backorderとなっているものもあり、未だに納品されていないものもある。前年度は、コロナの影響により、様々な面で予定通り仕事を進めるのが困難であった。ずれ込んだものは、次年度にまとめて支払う予定である。
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