代表者は本研究課題において、腸管オルガノイド培養系を駆使してヒトノロウイルス(HuNoV)感染に対する宿主免疫機構の解明および当該ウイルス感染を規定する宿主因子の同定を目指して研究を進めてきた。前年度までに、HuNoV感染腸管オルガノイドのRNAseq解析により、宿主抗ウイルス応答に重要な遺伝子群(パターン認識受容体、IRF転写因子、JAK/STATシグナル伝達経路、インターフェロン誘導遺伝子)の発現が感染により顕著に上昇することを明らかとした。さらに、当該応答に関わる主要構成因子の一つであるSTAT1遺伝子を欠損した腸管オルガノイドを用いた解析から、JAK-STAT経路依存的な抗ウイルス応答がHuNoV増殖の抑制に寄与していない可能性を示唆する知見を得た。そこで本年度は、JAK-STAT経路とは異なる作用機序で抗ウイルス活性を示すことが報告されている宿主因子の一つであるNFKB1遺伝子を欠損した腸管オルガノイドの樹立を試みた。その結果、CRISPR-Cas9法を用いることで当該遺伝子を欠損したオルガノイドを樹立することに成功したものの、NFKB1遺伝子の欠損によるオルガノイド内でのHuNoV増殖性の顕著な変化は認められなかった。現在、他の候補となる遺伝子を欠損した腸管オルガノイドの樹立を試みている。本研究課題において、HuNoV感染制御因子の同定には至らなかったものの、宿主因子を解析する上で必須のツールであるCRISPR-Cas9法により遺伝子欠損腸管オルガノイドを樹立する系を確立できたことは大きな進歩であり、本系を駆使することで今後の更なる研究の発展が期待できる。
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