本研究は、HIVとHBVの逆転写酵素(RT)のアミノ酸配列に相同性が高いという知見を基に、HIV RTをHBV型アミノ酸に置換したキメラRTを用い、抗HBV核酸アナログ(NA)との共結晶構造を解析し、HBV RTとNAの相互作用解明、構造・活性相関を検討し、新規薬剤開発へと応用することを目的としている。 これまでに、抗HIV NAであるAZTへの感受性が減少し、かつ抗HBV NAであるETVに強い薬剤感受性を示すよう変化した3MBキメラ(HIV RT Q151M/Y115F/F116Y)をベースに、さらにHBV型変異や、薬剤耐性変異を導入した様々なキメラ酵素を設計、dNTP/NA-TPとの共結晶構造解析を行なった。その結果、これまでのHBV RTインシリコモデルでは捉えることができなかったHIV/HBV RT間の活性部位微細変構造変化を捉えることに成功した。特に薬剤耐性変異として広く知られるM184VにF160M変異が加わることにより活性ポケット表面に膨らみが生じ、その結果ETV等は活性ポケットにおいてプライマー鎖の3’-endリボースと著しい立体障害を生じることで結合し難くなることを示唆している。さらに、薬剤感受性試験を行った結果、3MB/M184VキメラはETV感受性が3MBに比して10倍以上低下するのに対して、3MB/F160Mキメラのそれは3MBキメラと同等であったが、3MB/F160M/M184Vキメラは~30倍のETV感受性低下を示した。本研究成果は、F160MおよびM184V変異によるHBV RTのETV耐性発現メカニズムについて新たな知見を与えるものである。
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