研究課題/領域番号 |
20K07527
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
白銀 勇太 九州大学, 医学研究院, 助教 (40756988)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 亜急性硬化性全脳炎 / 麻疹ウイルス / シス受容体 / スプライシングバリアント / 膜融合 / 神経病原性 / CADM1 / CADM2 |
研究実績の概要 |
麻疹ウイルスは麻疹の病原ウイルスであるが、稀に脳に持続感染が成立して亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を引き起こす。私たちは麻疹ウイルスが神経で増殖しSSPEを発症するメカニズムの解明を目指している。 麻疹ウイルスは膜融合タンパク質に膜融合促進変異を獲得することで神経病原性を持つ。今年度、私たちはそのような神経病原麻疹ウイルスの神経での増殖に必要な宿主因子としてシス作用性受容体Cell adhesion molecule (CADM) 1およびCADM2を同定し、Journal of Virology誌に報告した(Shirogane et al., 2021, Journal of Virology 95(14) e0052821)。CADM1/2はトランスに作用する一般的な受容体とは異なり、麻疹ウイルスの受容体結合タンパク質と同一膜上に(シスに)発現し、感染細胞と隣接する感受性細胞の膜融合を誘導する。このように、本業績によりSSPEの発症機序の解明が進んだのみならず、ウイルス受容体の概念に新たな考え方も提供されることとなった。本業績は同雑誌のSpotlight論文に選ばれた。 また、CADM1/2のシス受容体としての機能は特定のスプライシングバリアントのみで発揮されることが明らかとなった。更に、CADM1/2による膜融合の誘導は、受容体結合タンパク質のヘッドドメイン(受容体結合ドメイン)を必要としないことも示した。これらの結果は通常の受容体と私たちの提唱する「シス受容体」の概念的な差異をより際立たせるものであり、Journal of Virology誌に報告された(Takemoto et al., 2022, Journal of Virology 96(3) e0194921)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、CADM1/2が麻疹ウイルスの神経病原性に必要な宿主因子「シス受容体」であることを証明し、査読を経て論文として報告することができた。また、CADM1/2のスプライシングバリアントの機能解析も計画通りに進み、同様に論文として報告することができた。また、予想外なことに、麻疹ウイルスの受容体結合タンパク質の受容体結合ドメインがCADM1/2の機能には必要がないことも発見し、シス受容体の概念がより一層明確になった。 また、CADM1/2はマウス、ハムスターでも同様にシス受容体として機能することが示され、それらはSSPEモデル動物として利用可能であることも明らかとなった。 一方、CADM1/2と受容体結合タンパク質の相互作用に関する構造学的な解析についてはこれからの進展を見込んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
CADM1/2のモデル動物における神経病原性に寄与する役割を調べるため、麻疹ウイルスに変異を導入し、CADM1/2を利用できないウイルス(CADMブラインドウイルス)を作製し、神経病原性が失われることを確認する。これにより、in vivoでのCADM1/2の重要性について明らかにすることが可能である。 またウイルス受容体結合タンパク質のストーク領域がCADM1/2との相互作用に重要だと考えられることから、ストーク領域を用いた構造解析や、ストーク変異体の解析などを実施し、構造学的にCADM1/2の機能を解明する。 更に、宿主側の神経病原因子のみならず、ウイルス側の神経病原因子について、より詳細な検討を実施したい。ウイルス膜融合タンパク質の変異の獲得により神経病原性を獲得する麻疹ウイルスであるが、神経での増殖を可能にする変異は単一ではなく多くの変異が知られている。現時点では3種類の変異体でのみCADM1/2が受容体として機能することを確認している。今後は報告される変異のすべてでCADM1/2が利用されることを確かめたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究の実施状況はコロナウイルスの影響もほとんどなく、例年通りか、または例年以上の研究活動に従事できた。しかしながら、消耗品費を中心として、前年度にコロナウイルスの影響を受けて次年度使用とした分のうちの一部が未執行となった。これらの未執行分は研究活動のペースの上昇を受け、来年度でも引き続き有効な活用が見込まれたため、次年度に使用することとした。
|