研究課題/領域番号 |
20K07533
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
松岡 和弘 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター), その他部局等, 研究員(移行) (60617140)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウイルス / HIV / Vif / APOBEC3 / 構造解析 |
研究実績の概要 |
HIV-1がコードするアクセサリータンパク質であるVifは、ヒトの宿主防御タンパク質APOBEC3(以下:A3)に結合し、A3の抗HIV-1作用を無効化する。これまでVifとA3Hの結合様式を理解するために、両者の結合に関与するアミノ酸および結合領域の構造学的な特徴をA3Hの単体構造から明らかにしてきた。一方で、その詳細を解明するために必要となるVif-A3H複合体構造は未決定のままである。そこで本研究では、Vif-A3H複合体の立体構造を決定し、構造情報に基づいて設計した変異体の機能解析を行うことで、原子・分子レベルでVif-A3H複合体の結合様式を解明することを目的とする。 当該年度において、Vif-A3H複合体の発現・精製法、大腸菌発現ベクターの最適化を行い、X線回折測定できる大きさのVif-A3H複合体の単結晶の取得およびクライオ電子顕微鏡法によるVif-A3H複合体の粒子像の取得を目標に研究を実施した。 1)これまでにVif-A3H複合体を形成することができるVifとCBF-bの最小領域の決定など基盤情報を蓄積してきたが、さらに発現コンストラクトや結晶化条件の再検討による最適化を行った。しかしながら、現状では回折測定に適する十分な大きさに結晶を成長させることができなかった。 2)結晶構造解析に加えて、米国の研究グループとの共同研究で、高分解能で解析が可能となってきたクライオ電子顕微鏡法によるVif-A3H複合体構造の解析も実施した。しかしながら、これまでのところ、構造解析に適する粒子像は取得できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始当初、構造解析を行うための十分な質と量のVif-A3H複合体(5者複合体:Vif/CBF-b/ELOB/ELOC/A3H)を取得するための発現・精製系に技術的な課題があった。これまでに、沈殿・凝集を抑制できる添加剤を見出すことに成功し、発現・精製系を確立することで、これまでの課題を解決することができていた。この課題の克服により、発現コンストラクトと結晶化条件を検討することで回折測定に適する大きさの結晶を取得することが期待されたが、本年度も残念ながら単結晶は得られていない。さらに、21年度から米国の研究グループとの共同研究より、クライオ電子顕微鏡法による構造解析を開始した。しかし。新型コロナウイルス感染症に関連する影響によって、実験の遂行に大きな遅延が生じた。そのため、Vif-A3H複合体の解析のためのバッファー条件、クロスリンクの条件などの検討は実施したが,高分解能の構造解析に向けた試料調製法を確立することができなかった。新型コロナウイルスに関連する業務の影響などで実験の遂行に遅延が生じているが、実験自体はある程度、計画通りに行うことができた。しかしながら、2年目までの到達目標であるVif-A3H複合体の構造を決定とはいかなかったので,全体的にはやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
結晶構造解析またはクライオ電子顕微鏡法を用いたVif-A3H複合体の立体構造の取得を最優先に研究を遂行する。 Vif-A3H複合体の構造の決定が遅れているため、結晶構造解析の方では本研究の研究協力者であった東京薬科大学の永江博士に更に密な連携をとり構造決定を行うために2022年度から分担研究者に加わって頂くことにした。研究分担者の永江助教には、Vif-A3H複合体の結晶化スクリーニングを行って頂き、良質の単結晶を得られる結晶化条件の決定を分担していただく。そして、単結晶を用いて、X線結晶構造解析によりVif-A3H複合体の立体構造の決定を担当して頂く。2022年度は、Vif-A3H複合体について各種プロテアーゼを用いたflexible領域の除去による結晶化の促進、および既報のVif複合体の構造決定に使用していた、Cul5のN末を含めた6者複合体での結晶化スクリーニングも行う予定である。 2021年度から開始したクライオ電子顕微鏡法によるVif-A3H複合体構造の解析も進めていく。具体的には、改善の余地があるVif-A3H複合体の解析のためのバッファー条件、クロスリンクなどの条件検討を行う。さらに、粒径を大きくして分解能を上昇させるために、Cul5のN末を含めた6者複合体を用いることで複合体の分子量を大きくさせる予定である。 最終的には、Vif-A3H複合体の立体構造を決定し、構造情報に基づいて設計した変異体の機能解析を行うことで、原子・分子レベルでVif-A3H複合体の結合様式の解明を目指す。本年度は、本研究で得られた基盤データに関して学会発表や学術論文として研究成果を積極的に発表していきたい。
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