本研究では、in vitroとin vivo双方のモデルを用いて末梢体内時計の観点から腸管免疫制御機構を明らかにすることを目的とした。 昨年度に引き続き有用食物繊維については、ストレス再発性IBD様マウスを用いたin vivo実験系では、寛解期中の有用食物繊維の摂取により再発期の症状が有意に抑制できることを示した。さらに食物繊維を摂食したマウス糞便消化物の影響をCaco-2/ HT-29共培養系において調べることにより、腸内微生物の代謝物が腸管上皮免疫系の概日リズムを有意に改善することが確認された。また、CXCL8/IL8、MUC2の発現リズムが有用食物繊維添加により改善され、腸内恒常性の改善につながると考えられた。本研究成果についてはInt J Mol Sci. 2024 Feb 21;25(5):2494. doi: 10.3390/ijms25052494.において誌上発表した。 さらに、腸内細菌叢の代謝産物と時計遺伝子との関係を明らかにするために、腸内細菌によるエラグ酸の代謝産物であるウロリチンA(UA)を用いて、異なる腸管上皮細胞モデルにおける時計遺伝子の発現量や発現リズムを比較することによりUAが腸管上皮細胞における時計遺伝子の発現に好影響を与える機能を確認した。また、UAは炎症下Caco-2細胞において誘導されるCLDN1の過剰発現リズムを抑制し、IBD様炎症モデルマウスにおいても同様にCldn1およびCldn4の過剰発現リズムを抑制した。また、UA投与により糞便中IgA濃度が上昇した。さらに中枢時計におけるBmal1およびPer2の発現量が有意な増加を認め、IBD患者の多くが抱える睡眠障害の解決の糸口となる可能性が示唆された。Nrf2-SIRT1シグナル伝達経路がUAの腸の概日リズムに対する作用に関与していることが確認され、現在投稿中である。
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