研究課題
濾胞制御性T細胞 (follicular regulatory T cells: TFR細胞)は、自己抗原を認識するIgG抗体 (自己抗体)やアレルギー応答に関与するIgE抗体の産生を抑制することで、自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症抑制に必須の役割を果たす。しかし、その分化機序については不明な点が多い。本研究では、in vitroのTFR細胞分化誘導系と、既知活性化合物やoff patent医薬品ライブラリーを組み合わせ、ケミカルバイオロジーの手法を用いることで、TFR細胞の分化に関わる分子を網羅的に同定する事を目的としている。さらに、TFR細胞を標的とした自己免疫疾患やアレルギー疾患の新規治療薬候補の検証を行う。2020年度は、in vitroのTFR細胞分化誘導系を用いて、既知活性化合物やoff patent医薬品ライブラリーのTFR細胞分化誘導能をイメージサイトメトリーの手法でスクリーニングした。具体的には、Foxp3-EGFPとBcl-6-tdTomatoのダブルレポーターマウスの脾臓からナイーブT細胞を単離し、96ウェルプレート上でTFR細胞分化誘導条件下にて培養する際に化合物を添加した。また、ウェル上で生細胞を同定するのに必要な蛍光色素で染色を行った。培養後に、TFR細胞分化の指標としてEGFPのシグナルとtdTomatoのシグナルを計測し、生細胞中のFoxp3とBcl-6を発現する細胞数やその発現強度を評価した。1次スクリニーングとして、計800種類の化合物を評価し、その中でFoxp3とBcl-6の発現細胞数や発現強度を増強・減弱させる化合物を50種類以上同定した。またスクリーニングに使用するTFR細胞分化誘導系を樹立した事を、論文として報告した。
3: やや遅れている
本研究課題は、申請書の研究計画に沿って、大きな問題を生じる事なく進捗していると考えている。2020年度の計画は、既知活性化合物やoff patent医薬品ライブラリーが、TFR細胞分化誘導する能力を評価する1次スクリーニングを終了する事を目標としていた。しかしながら、遺伝子改変マウスから単離した初代細胞を用いるスクリーニング系であることから、スクリーニングの進捗がマウスの生産計画に大きく依存している。2020年度前半のコロナ禍の影響でマウスのコロニーを一時的に大幅に縮小した結果、繁殖計画に遅延が生じ、必要数のマウスを揃える事が出来なかった。この影響で、1次スクリーニングの進捗率は概ね80%であり、計画に若干の遅れが生じている。しかしながら、2021年度の第一四半期にはこの遅れを取り戻せる予定である。
計画に若干の遅延が生じている事から、2021年度の第一四半期までに前年度の遅れを取り戻し、TFR細胞分化誘導能の1次スクリーニングを終了する。従って、第二四半期からの残期間で当初の2021年度の計画を実施することを目指す。2021年度の計画は、1次スクリーニングで選抜した化合物について、2次スクリーニングとしてイメーサイトメトリーによって、TFR細胞分化の別の指標であるTCF-1とCXCR5の発現を評価する。2次スクリーニングでは、TCF-1-EGFPレポーターマウスを使用する。TFR細胞培養後に、BV421標識抗CXCR5抗体で染色し、生細胞中のEGFPとBV421のシグナルを指標としてTCF-1とCXCR5のシグナルを計測し、生細胞中の発現細胞数やその発現強度を評価する。その中でTCF-1とCXCR5の発現細胞数や発現強度を増強・減弱させる化合物を同定する。2次スクリーニング後は、3次スクリーニングとして、2次までに評価したFoxp3、Bcl-6、TCF-1、CXCR5に加えて、他のTFR細胞に特徴的な分子の発現に対して化合物が与える影響をフローサイトメトリーにて評価する。また、ヒトのTFR細胞培養系を用いても同様の評価を行う。その後、既知活性化合物やoff patent医薬品で構成される化合物ライブラリーを使用する利点を生かし、TFR細胞の分化や機能に関わる分子の役割を検証する。多数の候補分子が同定されると期待される事から、全てを対象とするのは困難である為、本研究計画では特に転写因子に着目する。CRISPR/Cas9システムで遺伝子発現を欠損させる、もしくは強制発現させ、TFR細胞の分化に与える影響を解析する。研究計画の最終年度には、スクリーニングを経て同定するTFR細胞の分化誘導を促進する化合物を用いて、自己免疫疾患とアレルギー疾患への治療効果を検証する。
2020年度は、化合物のスクリーニングのみを実施した。化合物は他研究機関等より無償で供与されたものである。また、実験に使用したマウスの飼育費用や、イメージサイトメトリーに使用した試薬類は少額であった為、所属研究機関より受領した研究費を利用することで賄った。また、コロナ禍の影響によりマウスの繁殖計画が遅れた事から、計画の80%程度しか進める事が出来なかった。上記の事情に加えて、2021年度以降に多額の資金を要する実験計画があることから、2020年度の資金を繰越して利用する事とした。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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