研究課題
濾胞制御性T細胞 (follicular regulatory T cells: TFR細胞)は、自己抗原を認識するIgG抗体 (自己抗体)やアレルギー応答に関与するIgE抗体の産生を抑制す ることで、自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症抑制に必須の役割を果たす。しかし、その分化機序については不明な点が多い。本研究では、in vitroのTFR細胞分化誘導系と、既知活性化合物やoff patent医薬品ライブラリーを組み合わせ、ケミカルバイオロジーの手法を用いることで、TFR細胞の分化に関わる分子を網羅的に同定する事を目的としている。さらに、TFR細胞分化誘導を持つ化合物を用いることで、TFR細胞を標的とした自己免疫疾患やアレルギー疾患の新規治療薬候補の検証を行う。2021年度は、in vitroのTFR細胞分化誘導系を用いて、放線菌培養上清のTFR細胞分化誘導能をイメージサイトメトリーの手法でスクリーニングした。具体的には、Foxp3-EGFPとBcl-6-tdTomatoのダブルレポーターマウスの脾臓からナイーブT細胞を単離し、96ウェルプレート上でTFR細胞分化誘導条件下にて培養する際に放線菌培養上清を添加した。培養後に、TFR細胞分化の指標としてEGFPのシグナルとtdTomatoのシグナルを計測し、生細胞中のFoxp3とBcl-6を発現する細胞数やその発現強度を評価した。1次スクリニーングとして、計500種類の放線菌培養上清を評価し、その中でFoxp3とBcl-6の発現細胞数や発現強度を増強させる放線菌培養上清を15種類同定した。さらに15種類の放線菌培養上清のTFR細胞分化誘導能をフローサイトメトリーを用いて解析し、そのうち5種類に絞り込むことに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題は、申請書の研究計画に沿って、大きな問題を生じる事なく進捗していると考えている。2021年度の当初計画は、1次スクリーニングで選抜した化合物について、2次スクリーニングとしてFoxp3とBcl-6以外のTFR細胞の分化マーカーであるTCF-1とCXCR5の発現を評価することを到達目標としていた。しかしながら、より効率的にスクリーニングを実施する為に、当初3次スクリーニングで評価する予定であった他のTFR細胞の分化マーカーも同時に評価を行った。その結果、研究実績の概要にも記載のように、1次スクリニーングで同定した放線菌培養上清を15種類の中から5種類に絞り込むことに成功した。現在、既知活性化合物やoff patent医薬品ライブラリーにおいても同様に当初計画を変更する形で2次・3次スクリーニングを同時に実施している。
・高いTFR細胞分化誘導能を示した放線菌培養上清5種類に含まれる責任物質を同定するために、培養上清のフラクショネーションを実施する予定である。・ヒトTFR細胞培養系も樹立済みであるので、マウスの細胞を用いて高いTFR細胞分化誘導能を示した既知活性化合物やoff patent医薬品ライブラリーの化合物、放線菌培養上清がヒトのTFR細胞の分化誘導も行うのか評価する。・高いTFR細胞分化誘導能を持つ化合物がTFR細胞の機能に与える影響を評価する。その為に、化合物で処理したiTFR細胞と、マウスから採取したB細胞とTFH細胞を共培養する事で、TFR細胞がB細胞の抗体産生を抑制する機能を評価する。・既知活性化合物やoff patent医薬品で構成される化合物ライブラリーを使用する利点を生かし、計画3年目までに同定するTFR細胞の分化や機能に関わる分子の役割を検証する。多数の候補分子が同定できると期待される事から、全てを対象とするのは困難である為、本研究計画では特に転写因子に着目する。iTFR細胞を用いて、CRISPR/Cas9システムでそれらの遺伝子発現を欠損させるもしくは遺伝子を強制発現させ、TFR細胞の分化や機能に与える影響を、フローサイトメトリーやトランスクリプトーム解析を用いて評価する。・同定するTFR細胞の分化誘導を促進する化合物を用いて、TFR細胞が発症抑制に重要な役割を果たす自己免疫・アレルギー疾患への治療効果を検証する。多数の候補化合物を選抜できると想定される事から、iTFR細胞の分化や機能に与える影響の強さや、標的分子のTFR細胞以外での発現、合成の容易さ、経口投与時のバイオアベイラビリティ等を総合的に考慮し数個選択する。自己免疫疾患モデルは、コラーゲン誘発性関節炎モデル、アレルギー疾患モデルはイエダニ抗原誘導アレルギーを使用する。
2021年度は、化合物のスクリーニングとフローサイトメトリーのみを実施した。化合物や放線菌培養上清は他研究機関等より無償で供与されたものである。また、実験に使用したマウスの飼育費用や、イメージサイトメトリーに使用した試薬類は少額であった。また、2022年度以降に当初計画より多くの動物を使用する多額の資金を要する実験計画があることから、2021年度の資金を繰越して利用する事とした。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
Front Pharmacol
巻: 12 ページ: Article 715752
10.3389/fphar.2021.715752
Chembiochem
巻: 16 ページ: 3158-3163
10.1002/cbic.202100255
Nat Commun
巻: 12 ページ: Article 2105
10.1038/s41467-021-22212-1