研究課題/領域番号 |
20K07558
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大塩 貴子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (80723238)
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研究分担者 |
園下 将大 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (80511857)
市川 聡 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (60333621)
藤井 清永 第一薬科大学, 薬学部, 教授 (10278327)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膵がん / リボフラビン / ショウジョウバエモデル |
研究実績の概要 |
膵臓がんは、種々のがんの中で最も予後が悪い。その新規治療法の開発は極めて重要な福祉課題だが、長年の研究にもかかわらず詳細な発生機序や有効な治療標的は十分に解明されていない。 申請者らはこれらの解析を一層推進すべく、最近、膵臓がん患者の中でも最も予後が悪い患者群で観察される4遺伝子変異を模倣した初の動物モデル、4-hitショウジョウバエを作出した。このハエは腫瘍細胞の増殖や浸潤能の著しい亢進により致死となるが、申請者は遺伝学的解析により、リボフラビンキナーゼ(RFK)がこれらの表現型を促進することを見出した。RFKは、リボフラビン(RF)代謝の律速酵素である。さらに、RF経路阻害剤のroseoflavin (RoF) とMEK阻害薬trametinibの組み合わせも、そのハエの生存率を大きく回復させることを発見した。したがって、RoFとtrametinibの組み合わせがヒト膵がんの新規治療標的となることが示唆された。 そこで本年度は、ヒト膵がん細胞株であるMIAPaca-2、Panc-1、Capan-1、PCI-55細胞にて、RoFとtrametinibの効果をMTS試験により検討した。その結果、RoFやtrametinib単独でもミトコンドリア呼吸鎖の活性は濃度依存的に低下したが、それらを組み合わせることによってさらに低下した。さらに、細胞株によりそれらの感受性は異なることが明らかになった。また、RoF処置した膵がん細胞では、細胞内のRFやその代謝物であるFMN、FADが有意に低下した。以上の結果より、RoFはRF経路を競合阻害することにより、膵がん細胞内でのRF、FMN、FADの量を低下させ、その下流で働くフラボタンパク質の活性を抑えることでミトコンドリアの活性を抑制していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、複数の膵がん細胞株においてRoFとtrametinibの効果を検討した。また、細胞内でのRF、FMN、FADの測定系の立ち上げにも成功し、複数の膵がん細胞での測定が完了した。さらに、RF経路による膵がん抑制の作用機序を明らかにするために、そこに関わるRFKとFLAD1の遺伝子のノックダウンやノックアウトの系も働くことを確認した。また、RoFとtrametinibをマウスでの最大耐容量も検討し、ヒト膵がん細胞を移植したマウスでの投与量も決定した。 以上の理由より、本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、RoFによる膵がん形質への影響を検討してきた。さらに、RF経路に関わる個々の遺伝子の機能を明らかにするために、ノックダウンとノックアウトの系を立ち上げた。ノックダウンでは、RNAレベルで90%以上の効率を確認し、ノックアウトではホモのノックアウトは樹立できなかったが、ヘテロのノックアウト細胞を複数樹立することに成功した。そこで、今後はその細胞やノックダウンの系を用いて、増殖やアポトーシス、抗がん剤への応答、細胞内でのRFやその代謝物の量などを検討する。さらに、RoFとtrametinibの効果をヒト膵がん細胞を移植したマウスに投与し、腫瘍の大きさや転移、分化度や生存などへの影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究先の藤井先生が質量分析に必要な消耗品および試薬代を計上していたが、コロナの影響で研究が思うように進まなかったことと、以前に使用していたものを活用することができたため、昨年度は予算を使用せずに研究を遂行できた。しかし、今年度はその消耗品などの在庫が枯渇するため、その分と新たに立ち上げる測定系のために、追加の試薬の購入が必要である。
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