研究課題
正常上皮細胞層に出現した一個ないし数個のRas(RasV12)もしくはSrc(SrcY527F)変異細胞は、隣接する正常細胞との間で起きる競合的相互作用により、頂端側に排除される。申請者の最近の電子顕微鏡観察から、 特徴的で微細な細胞突起finger-like protrusionが、正常-変異細胞の境界でcdc42-FBP17経路を介して形成されることが明らかになった。またこの構造が、変異細胞の上皮細胞層からの排除における細胞間認識に重要である可能性を示唆した。しかし、細胞突起の空間的な分布やその特徴について不明な点が多く残されている。そこで申請者は、細胞競合条件での細胞突起についてX-YとX-Z切片の両方を用いた微細構造観察を行った。まず、細胞突起の分布や幅を定量解析したところ、いずれの観察条件においても、細胞突起は頂端側の密着結合の領域を除いた、細胞間接着部位全体に分布していることが明らかになった。また、Ras変異細胞と隣接する正常細胞間に見られた細胞突起の幅が細胞非自律的に狭くなることも分かった。次に、細胞突起同士の間に観察される細胞間接着構造に注目した。その結果、電子密度の高い、薄い板状の構造を介した細胞間接着が見られたことから、未熟なデスモゾーム、接着結合、もしくは未知の弱い細胞間接着が存在することが明らかになった。興味深いことに、Ras変異細胞とは異なり、Src変異細胞には顕著な細胞突起が認められず、またSrc変異細胞においてFBP17は細胞競合に必須ではないことが示された。以上の結果から、細胞突起を介した細胞間接着のダイナミックな再編成により、正常細胞とRas変異細胞間の細胞競合が正に制御される可能性が示唆された。さらに、がん原性変異の種類によって正常細胞層からの排除に至る過程に多様性があることが推測された。
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