研究実績の概要 |
以前の解析により、肝がん細胞においてODAM(Odontogenic, ameloblast associated)はWntシグナルによって発現調節されることが明らかとなった。本年度は、肝細胞がんにおいてODAMの発現とAXIN1やSP5、LGR5などの代表的なWnt標的遺伝子との発現には有意な相関が認められることや、肝芽腫を用いた免疫組織化学染色では腫瘍部位においてODAMが強く発現していること、ならびにβ-cateninと発現パターンが一致していることを明らかにした。また、前年度の解析において、ODAM転写開始点から約15kb上流に機能的なTCF結合モチーフを同定したが、実際、ODAMの発現調節に関与しているかどうかは不明であった。そこで、肝芽腫HepG2細胞を用いて、CRISPR-Cas9によってこの領域を切断・除去したところ、ODAMの発現は顕著に低下した。さらにODAMをノックダウンするとEdU取り込みを指標とした肝芽腫細胞のDNA合成や増殖は有意に抑制された。Wnt/β-cateninの異常による肝がんの発生や進展において、ODAMは重要な役割を演じていることが示唆された。 次にAPC遺伝子をノックアウトしたHAP1慢性骨髄性白血病細胞のRNA-seq解析から、新たなWnt標的遺伝子、Visinin-like 1(VSNL1)を同定した。レポーターアッセイやChIPアッセイによって、VSNL1遺伝子のイントロン1に存在する2つのTCF結合モチーフがWntシグナルによる発現調節に重要な役割を演じていることが明らかとなった。また、VSNL1の発現を抑制すると大腸がん細胞にアポトーシスが誘導される一方で、VSNL1過剰発現は細胞障害性抗がん剤による細胞死を抑制した。以上の結果より、VSNL1がWntシグナルの薬剤耐性メカニズムに関与している可能性が示唆された。
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