がんは、栄養素をエネルギーに変え旺盛な増殖能を発揮する一方で、様々なストレスに抗して生き残る機能も兼ね備えている。抗がん剤などのストレス応答には、様々な代謝調節機構が関与しており、がんを根治する治療薬の開発には、がん特有の代謝調節機構を解明する必要がある。申請者は、分子標的薬の抵抗性に関わる代謝分子を同定する目的で、栄養センサーであるmTORキナーゼの下流分子を探索した結果、ニコチンアミド代謝関連酵素を同定した。解析の結果、本酵素は、正常組織の機能に必須ではないが、生体内のがん細胞の増殖に極めて重要なこと、さらに、分子標的薬の耐性に関与していることなど、がん特有の機能に重要な役割を果たしていることが判明した。 ニコチンアミドは食餌から摂取されるほか、NAD+合成経路からも供給される。がんはNAD+合成を亢進させることで解糖系などを活性化しており、ニコチンアミドはがん特有の代謝調節に関わる栄養素である可能性が示唆された。本研究では、がん組織特異的なニコチンアミドの代謝様式や、がんの増殖・治療抵抗性における本酵素の機能を理解することで、がん特有の代謝調節機構の解明に迫る。そのため、本研究では、①正常およびがん細胞のニコチンアミド代謝フラックス解析、②がんの増殖および分子標的薬耐性における本酵素の機能解析、③ニコチンアミド経路を指標としたニッチ細胞の特定を実施する予定である。 本年度は主にがん細胞のニコチンアミド代謝フラックス解析と遺伝子発現プロファイリングを実施した。
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