研究課題/領域番号 |
20K07567
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
佐々木 宗一郎 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (50583473)
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研究分担者 |
向田 直史 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30182067) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乳がん / 骨転移 / 線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
Triple-negative (TN) 乳がんにおいて、高頻度で起きる骨を含む種々の臓器への転移が、患者の生命予後に大きく影響する。破骨細胞を標的とした治療が汎用されているが、対症的であることに加え顎骨壊死などの重篤な副作用を引き起こすこともあり、新たな治療法の開発が求められている。 研究代表者は、乳房脂肪組織移植によって骨への自然転移を高率に起こす乳がん細胞株、4T1.3をマウス乳がん細胞株4T1から樹立し、骨転移過程を解析した。これまでに4T1.3が産生するケモカインCCL4を介した骨内への線維芽細胞(CAF)の誘導と、CAFが産生する結合組織成長因子(CTGF)によって構築される微小環境が、がん細胞の増殖を促進させることを明らかとした。 骨内の4T1.3は親株と比べて、細胞接着型Gタンパク共役受容体(ADGR)の1つであるGPR56/ADGRG1を高発現し、集積したCAFではGPR56/ADGRG1に対するリガンドであるⅢ型コラーゲンの発現が亢進していた。さらに、ルイス肺がん由来細胞株(3LL)と比較して、そこから樹立した高骨転移株(3LL-B)を用いた実験系でもGPR56/ADGRG1の発現亢進が確認され、GPR56/ADGRG1が乳がん以外の癌腫でも骨転移に関与している可能性が示唆された。さらに、ヒト乳がん細胞株であるMDA-MB-231細胞株にGPR56/ADGRG1を強発現させるとコントロールと比較してGPR56/ADGRG1強発現クローンで、骨内での高い増殖能が示された。一方、CRISPR-Cas9法を用いてGPR56/ADGRG1の遺伝子発現を抑制したTS/A.3、3LL-B細胞は、骨髄内における増殖能が抑制された。以上の結果より、骨転移過程におけるGPR56/ADGRG1の普遍的な関与が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨髄内に3LLを投与し、4T1.3以外の高骨転移株である3LL-Bを樹立した。3LL-Bは骨髄内投与モデルにおいて、骨髄における高い増殖能を示し、骨微小環境特異的にGPR56/ADGRG1の発現が亢進した。一方、ヒト乳がん細胞株であるMDA-MB-231細胞にGPR56/ADGRG1を強制発現させた細胞株を樹立した。GPR56/ADGRG1の発現によりMDA-MB-231は骨髄内での高い増殖能を獲得し、マウス細胞株と同様の結果が得られた。In vitroの検証よりGPR56/ADGRG1を強発現させた細胞株では接着、非接着のいずれの培養条件でもコントロール群と比較して増殖能に有意な差は見られず、乳がん幹細胞マーカーの発現にも差は見られなかった。一方、GPR56/ADGRG1のリガンドであるⅢ型コラーゲン処理した培養プレート上ではコントロール群と比較してGPR56/ADGRG1発現細胞株が高い増殖能を示した。 骨転移を伴う臨床患者検体についても、複数の入手先からヒト乳がん患者の骨転移試料を入手しGPR56/ADGRG1発現を検討した。その結果、ヒト検体においても骨転移巣の乳がん細胞でGPR56/ADGRG1の発現が確認された。以上の解析は初年度に実施を予定していた研究計画であり、本研究は当初に予定していた計画におおむね沿った進行具合である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、骨髄内に集積した線維芽細胞と腫瘍細胞との相互作用を担っている分子としてGPR56/ADGRG1とⅢ型コラーゲンを同定した。これまで検討したマウス乳がん細胞株に加え、マウス肺がん細胞株と、ヒト乳がん細胞株であるMDA-MB-231を用いて、GPR56/ADGRG1の発現と骨髄内での腫瘍細胞の増殖能との関連性について明らかとした。さらに、4T1細胞より樹立した高骨転移株4T1.3のGPR56/ADGRG1の発現を制御可能な細胞株を用いた検討をすすめている。 来年度はこれまでに作成した細胞株を用いて、マウスにおける骨転移巣形成能の比較より、GPR56/ADGRG1を標的とした骨転移治療の可能性を検討する。これまでのIn vitroの解析よりGPR56/ADGRG1とⅢ型コラーゲンとの相互作用が骨内での腫瘍増殖に重要であることが明らかとなったため、今後はGPR56/ADGRG1の活性化メカニズムについて解析を進める。特に、活性化時におけるGPR56/ADGRG1の構造変化を検討して、活性化に必要な部分を明らかとする。下流のシグナル分子の解析結果と合わせて、今後の阻害剤開発に向けた基盤情報の取得を目的とする。 今回の解析から同定されたGPR56/ADGRG1の乳癌の骨転移における機能を明らかとすることで、線維芽細胞と腫瘍細胞との相互作用を介する骨転移の分子機構を解明し、骨転移に対する新規治療法を目指した研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による物品の慢性的な不足に加え、移動制限により研究の進行が一部妨げられた。今後、この状況が改善すると期待されるため、次年度に繰り越した方が有効に使用できると考え申請に至った。次年度は標的分子であるGPR56/ADGRG1を発現させた細胞を用いた次世代シーケンサーによる解析を検討している。
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