研究課題
本研究では、核構造と結びついたゲノム構造・機能環境に着目し、核膜孔を構築する核膜孔複合体を介した、扁平上皮癌(SCC:Squamous Cell Carcinoma)特異的マスター転写因子(MTF: Master Transcription Factor)の発現が誘導され維持されるメカニズムを解明することを目的とした。TP63はSCC特異的MTFであり、遺伝子発現を強力に誘導するスーパーエンハンサー(SE)を形成する。TP63自身の発現もSEにより誘導される。そこでTP63に注目し、DNA-FISH法により核内空間におけるSEの局在解析を実施した。TP63を含めたいくつかのSEが核膜孔近傍に局在化することが明らかになった。これらの局在制御において、核膜孔複合体構成分子NUP153が中心的な役割を果たすことが遺伝子干渉による機能喪失実験により分かった。このNUP153を介して核膜孔複合体近傍に局在するSEは、mRNA輸送効率が高く、TP63の遺伝子発現を維持するための重要な機構であることが示唆された。次に、NUP153のゲノム結合領域ならびに転写制御能力を評価するために、ChIP-seqおよびRNA-seqを行った。興味深いことに、NUP153の作用ゲノム領域と活性化クロマチン構造の指標であるH3K27ac領域は互いに排他的であった。また、NUP153が結合するゲノム領域に存在する遺伝子転写活性は、NUP153の発現量と相関しなかった。以上より、NUP153によるSEの局在制御には、SE領域ゲノムと相互作用ではなく、SE構成タンパク質との相互作用に依存することが示唆された。これらより、NUP153とゲノム相互作用はそれほど重要なイベントではなく、むしろNUP153とSE構成因子の間でおこるタンパク質相互作用が重要であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
期間全体を通して計画した研究項目の75%を達成できたため。
SEを核膜近傍に局在化する分子メカニズムの解明に取り組む。現在、SE構成因子との相互作用に関わる領域を決定にむけて、NUP153変異体発現ベクターを構築している。これらを発現した細胞を用いた免疫沈降法とMS解析を組み合わせたプロテオミクス解析により、核膜孔複合体を介したMTF発現環境形成因子の全貌解明に取り組む。
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