研究課題/領域番号 |
20K07570
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 美穂 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (80548470)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 長鎖非翻訳RNA / がん細胞 / 複製ストレス / R-loop |
研究実績の概要 |
がん細胞に特徴的な高い複製ストレスは、ゲノム不安定性をもたらし、発がんの促進やがんの進展を加速させることがよく知られている。しかし、がん細胞が高い複製ストレスに晒されながらも、複製を完了させ細胞増殖していく機構は完全に解明されていない。私たちはこれまでに、複製ストレスによって発現が誘導される長鎖非翻訳RNA (lncRNA)、TUG1を同定した。タンパク質をコードしないlncRNAは近年DNA損傷修復との関連が報告されているが、私たちはTUG1がDNA損傷の原因となるR-loopを解消する役割をもつことを明らかにした。TUG1と相互作用しDNAの複製ストレスから生じるDNA損傷を防ぐ機能をもつタンパク質を解析したところ、R-loopに結合することが知られているDHX9が同定された。私たちは、DHX9とTUG1が細胞内で直接結合していることを実験的に示した。次に、TUG1が解消するR-loopをゲノムワイドに同定したところ、TUG1ノックダウンにより特異的にR-loopが蓄積する領域が約300ヶ所存在することが分かった。TUG1-sensitive sitesと名付けたこれらの領域は、数kbにわたってマイクロサテライト配列を含む特徴的なリピート配列であり、定常状態でもR-loopを蓄積しやすい領域であった。つまり、TUG1はR-loopを形成しやすくDNA損傷を受けやすい領域を標的とし、その領域のR-loopを解消することでゲノムDNAを損傷から守る機能を果たしていることがわかった。さらに私たちは、TUG1によるR-loop解消は、TUG1結合タンパク質DHX9のRNAヘリカーゼ活性によることを明らかにした。また、超解像顕微鏡によって、TUG1が標的とするR-loopは転写と複製が逆方向から衝突するDNA損傷を受けやすい領域であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TUG1が解消するR-loopをゲノムワイドに同定するために、R-loopに特異的な抗体S9.6を用いてDRIP-seqを行った。解析の結果、TUG1ノックダウンにより特異的にR-loopが蓄積する領域が約300ヶ所存在することが分かった。TUG1-sensitive sitesと名付けたこれらの領域は、数kbにわたってマイクロサテライト配列を含む特徴的なリピート配列であり、定常状態でもR-loopを蓄積しやすい領域であった。つまり、TUG1はR-loopを形成しやすくDNA損傷を受けやすい領域を標的とし、その領域のR-loopを解消することでゲノムDNAを損傷から守る機能を果たしていることがわかった。これまでの研究で、CRISPR技術を利用して目的のRNAに結合するタンパク質を生細胞内で同定するCRISPR-assisted RNA-protein interaction detection method (CAPID)法を行い、TUG1と結合するRNAヘリカーゼDHX9を同定している。TUG1-sensitive sitesにはTUG1とDHX9が結合しており、DHX9をノックダウンするとTUG1-sensitive sitesのR-loop量は増加する。これはDHX9の強制発現によってレスキューできるが、ヘリカーゼ活性変異体ではレスキューされなかった。このことから、TUG1によるR-loop解消は、TUG1結合タンパク質DHX9のRNAヘリカーゼ活性によることが明らかになった。 また、超解像顕微鏡によって、TUG1とR-loopとPCNAが共局在していることを示した。TUG1が標的とするR-loopは転写と複製が逆方向から衝突するtranscription-replication conflictsと呼ばれる領域であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はTUG1を標的とする治療の効果を調べるため、脳腫瘍同所移植モデルを用いた動物実験を行う。R-loopを蓄積する抗がん剤との併用効果を含め、TUG1の発現抑制がどの程度腫瘍の増殖を抑えるか検討する。また、治療後の組織におけるTUG1発現量とR-loop量を調べ、TUG1阻害による細胞増殖抑制メカニズムについて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ対応により動物実験に遅延が生じたため、計画を翌年度へ延期した。TUG1を標的とする治療の効果を調べるため、脳腫瘍同所移植モデルを用いた動物実験を行う。R-loopを蓄積する抗がん剤との併用効果を含め、TUG1の発現抑制がどの程度腫瘍の増殖を抑えるか検討する。
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