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2022 年度 実施状況報告書

がん細胞の複製ストレスを解消する新規lncRNAの機能解明

研究課題

研究課題/領域番号 20K07570
研究機関名古屋大学

研究代表者

鈴木 美穂  名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (80548470)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード長鎖非翻訳RNA / がん細胞 / 複製ストレス / R-loop
研究実績の概要

がん細胞に特徴的な高い複製ストレスは、ゲノム不安定性をもたらし、発がんの促進やがんの進展を加速させることがよく知られている。しかし、がん細胞が高い複製ストレスに晒されながらも、複製を完了させ細胞増殖していく機構は完全に解明されていない。私たちはこれまでに、複製ストレスによって発現が誘導される長鎖非翻訳RNA (lncRNA)、TUG1を同定した。タンパク質をコードしないlncRNAは近年DNA損傷修復との関連が報告されているが、私たちはTUG1がDNA損傷の原因となるR-loopを解消する役割をもつことを明らかにした。TUG1と相互作用しDNAの複製ストレスから生じるDNA損傷を防ぐ機能をもつタンパク質を解析したところ、R-loopに結合することが知られているDHX9が同定された。私たちは、DHX9とTUG1が細胞内で直接結合していることを実験的に示した。次に、TUG1が解消するR-loopをゲノムワイドに同定したところ、TUG1ノックダウンにより特異的にR-loopが蓄積する領域が約300ヶ所存在することが分かった。TUG1-sensitive sitesと名付けたこれらの領域は、数kbにわたってマイクロサテライト配列を含む特徴的なリピート配列であり、定常状態でもR-loopを蓄積しやすい領域であった。つまり、TUG1はR-loopを形成しやすくDNA損傷を受けやすい領域を標的とし、その領域のR-loopを解消することでゲノムDNAを損傷から守る機能を果たしていることがわかった。さらに私たちは、TUG1によるR-loop解消は、TUG1結合タンパク質DHX9のRNAヘリカーゼ活性によることを明らかにした。また、超解像顕微鏡によって、TUG1が標的とするR-loopは転写と複製が逆方向から衝突するDNA損傷を受けやすい領域であることを示した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

TUG1が解消するR-loopをゲノムワイドに同定するために、R-loopに特異的な抗体S9.6を用いてDRIP-seqを行った。解析の結果、TUG1ノックダウンにより特異的にR-loopが蓄積する領域が約300ヶ所存在することが分かった。TUG1-sensitive sitesと名付けたこれらの領域は、数kbにわたってマイクロサテライト配列を含む特徴的なリピート配列であり、定常状態でもR-loopを蓄積しやすい領域であった。つまり、TUG1はR-loopを形成しやすくDNA損傷を受けやすい領域を標的とし、その領域のR-loopを解消することでゲノムDNAを損傷から守る機能を果たしていることがわかった。これまでの研究で、CRISPR技術を利用して目的のRNAに結合するタンパク質を生細胞内で同定するCRISPR-assisted RNA-protein interaction detection method (CAPID)法を行い、TUG1と結合するRNAヘリカーゼDHX9を同定している。TUG1-sensitive sitesにはTUG1とDHX9が結合しており、DHX9をノックダウンするとTUG1-sensitive sitesのR-loop量は増加する。これはDHX9の強制発現によってレスキューできるが、ヘリカーゼ活性変異体ではレスキューされなかった。このことから、TUG1によるR-loop解消は、TUG1結合タンパク質DHX9のRNAヘリカーゼ活性によることが明らかになった。
また、超解像顕微鏡によって、TUG1とR-loopとPCNAが共局在していることを示した。TUG1が標的とするR-loopは転写と複製が逆方向から衝突するtranscription-replication conflictsと呼ばれる領域であることが示唆された。

今後の研究の推進方策

本年度はTUG1を標的とする治療の効果を調べるため、脳腫瘍同所移植モデルを用いた動物実験を行う。R-loopを蓄積する抗がん剤との併用効果を含め、TUG1の発現抑制がどの程度腫瘍の増殖を抑えるか検討する。また、治療後の組織におけるTUG1発現量とR-loop量を調べ、TUG1阻害による細胞増殖抑制メカニズムについて解析を行う。

次年度使用額が生じた理由

コロナ対応により動物実験に遅延が生じたため、計画を翌年度へ延期した。TUG1を標的とする治療の効果を調べるため、脳腫瘍同所移植モデルを用いた動物実験を行う。R-loopを蓄積する抗がん剤との併用効果を含め、TUG1の発現抑制がどの程度腫瘍の増殖を抑えるか検討する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Long non-coding RNA lnc-CHAF1B-3 promotes renal interstitial fibrosis by regulating EMT-related genes in renal proximal tubular cells2023

    • 著者名/発表者名
      Imai Kentaro、Ishimoto Takuji、Doke Tomohito、Tsuboi Toshiki、Watanabe Yu、Katsushima Keisuke、Suzuki Miho、Oishi Hideto、Furuhashi Kazuhiro、Ito Yasuhiko、Kondo Yutaka、Maruyama Shoichi
    • 雑誌名

      Molecular Therapy - Nucleic Acids

      巻: 31 ページ: 139~150

    • DOI

      10.1016/j.omtn.2022.12.011

  • [学会発表] Maintenance of genome stability in cancer cells by long noncoding RNA2022

    • 著者名/発表者名
      鈴木美穂
    • 学会等名
      第81回日本癌学会学術総会
    • 招待講演
  • [学会発表] R-loop調節における長鎖非翻訳RNATUG1の機能2022

    • 著者名/発表者名
      鈴木美穂
    • 学会等名
      第15回日本エピジェネティクス研究会年会

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公開日: 2023-12-25  

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