胸腺は、T細胞の分化・成熟に必須の器官であり、T細胞とそれを取り巻くストローマ細胞により構成される。ストローマ細胞の中では、胸腺上皮細胞がT細胞への抗原提示や分化・成熟に中心的役割を担う。これまで胸腺T細胞研究はかなり進んだが、胸腺上皮細胞の増殖・分化・機能制御は,まだ不明な部分が多い。胸腺上皮細胞が腫瘍化した胸腺癌の多くが進行癌で発見されることから、予後不良の腫瘍であり、希少癌であるがゆえにその原因も未だ殆ど不明であることから、有効な治療法も確立されていない。そこで胸腺上皮細胞におけるHippo経路の役割を明らかにするため、種々のHippo経路分子を胸腺上皮特異的に欠損させたところ、YAP1欠損では胸腺サイズ、胸腺細胞数の減少するものの、T細胞の分化・成熟には影響しないことを見出した。一方で、胸腺関連の腫瘍免疫担当細胞には、CD8+T細胞、Treg細胞、NKT細胞があり、このなかでも腫瘍免疫領域におけるNKT細胞の重要性が報告されてきた。これまでに種々のHippo経路分子を胸腺上皮特異的に欠損させたところ、MST欠損すると成熟したiNKT細胞が激減すること、これは細胞増殖低下ではなくNKT細胞の分化段階で細胞死亢進によること、特にサブセットの中でもNKT1が減少すること、このサブセットに伴うサイトカイン産生が減少すること、などを見出した。これらの結果は最近になって報告されたMSTのNKT細胞における機能と一致していた。
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