研究課題/領域番号 |
20K07573
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
齋藤 敦 広島大学, 医系科学研究科(医), 准教授 (30580394)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞老化 / OASIS / 癌 / 細胞周期 / メチル化 / エピゲノム編集 / p21 |
研究実績の概要 |
小胞体膜局在転写因子OASISはDNA損傷に応答して切断を受け、DNA結合領域を含むN末端断片が核内に移行して転写因子として機能する。これまでにDNA損傷依存的に活性化したOASISがp21の発現を誘導し、細胞周期の停止と細胞老化を引き起こすことを見出している。本年度は、昨年度までにin vitroレベルで確認したエピゲノム編集技術の応用によるOASISプロモーターの特異的脱メチル化と癌細胞の増殖抑制効果を基に、同技術を駆使したin vivoレベルにおける腫瘍成長の抑制を試みた。OASISプロモーターがメチル化されており、その発現がみられないヒトglioblastoma U251MG細胞をヌードマウスに移植し、DNA切断活性をもたない変異Cas9、脱メチル化酵素TET1、OASISプロモーターを認識するgRNAを発現するエピゲノムコンストラクト(OASIS-gRNA)をin vivo transfection試薬を用いてU251MG由来腫瘍に投与した。OASIS-gRNAを投与した腫瘍ではその成長が抑制された。OASIS-gRNAを投与した腫瘍からDNAを回収してbisulfite sequencing解析を行うと、OASISプロモーター領域が特異的に脱メチル化されていることがわかった。この腫瘍ではp21、OASIS全長型およびそのN末端断片の発現レベルが上昇していることがwestern blottingで示された。OASIS-gRNAを投与した腫瘍を用いて組織染色を実施すると、細胞増殖のマーカーとして知られているki67陽性細胞数の減少とp21およびsenescence-associated-beta-galactosidase陽性の老化細胞増加も観察された。以上より、OASIS-gRNAの投与によりOASISの発現を回復させ、腫瘍の成長を抑制できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画であり、昨年度の推進方策でもあったOASIS-gRNAのin vivoにおける腫瘍成長抑制効果を実証することができた。OASIS-gRNAを投与した腫瘍ではOASISプロモーターの特異的脱メチル化に伴って内在性OASISの発現が回復するとともにp21を介した細胞老化が誘導され、細胞周期の停止と細胞増殖の抑制が観察された。以上の成果は臨床応用の基盤構築に繋がる可能性を秘めており、当初の達成目標として掲げていたテーマと合致するため、計画はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を踏まえ、今後は今回使用したgRNAとは異なる配列のgRNAを発現する複数のコンストラクトを作成する。これらのコンストラクトとU251MG細胞を用いて異種間移植実験を実施し、gRNAによる認識部位の違いが脱メチル化および細胞老化誘導と腫瘍成長を抑制する効果に及ぼす影響を比較検証する。また、glioblastoma U251MG細胞以外にも乳癌細胞をはじめとする複数の癌細胞においてOASISプロモーターが高度にメチル化されており、その発現が抑制されていることを見出している。そこでこれら癌細胞株を用いて異種間移植実験を実施する。本実験により各種エピゲノム編集コンストラクトによる腫瘍成長の抑制効果を調べ、エピゲノム編集コンストラクトがもつ癌抑制効果の汎用性を明らかにするとともに最も効果的な増殖抑制効果を示すgRNA配列を癌細胞のタイプによって分類することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
OASIS-gRNA投与のための最適条件検討が当初の予定よりスムーズに進行したため、次年度使用額が生じた。これはgRNAの認識配列パターンの数を予定より増やす事でさらに詳細な検討を実施するために使用する予定である。
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