小胞体膜局在転写因子OASISはDNA損傷に応答して切断を受け、DNA結合領域を含むN末端断片が核内に移行して転写因子として機能する。昨年度までにDNA損傷依存的に活性化したOASISがp21の発現を誘導し、細胞周期の停止と細胞老化を引き起こすことを見出している。さらに多くのglioma患者やglioblstoma細胞ではOASISプロモーターが高度にメチル化されており、その発現が抑制されていることを発見している。この高メチル化状態をエピゲノム編集技術によって解除するとOASISの発現が回復し、癌細胞の増殖が抑制されることをin vitro、in vivoの両面から示している。本年度は、OASISプロモーターの脱メチル化による癌細胞の増殖抑制効果を改良するために、エピゲノム編集のためのOASISプロモーター認識用ガイドRNA (gRNA)配列が異なるコンストラクトを複数作成した。これらをhuman glioblastoma U251MG細胞に導入し、bisulfite sequencing解析によってOASISプロモーターのメチル化レベルを調べたところ、gRNAの認識部位によって脱メチル化効率が異なることがわかった。最も脱メチル化レベルが高かったコンストラクト(OASIS-gRNA-1)を導入した細胞ではOASISおよびp21の発現が強く誘導され、老化細胞も大幅に増加していた。OASIS-gRNA-1による脱メチル化効果はヌードマウスに異種間移植したU251MG細胞由来の腫瘍でも確認できた。研究期間全体を通じて、OASISがDNA損傷に応答してp53非依存的にp21の誘導と細胞周期停止を引き起こすこと、複数の癌細胞におけるOASISプロモーターの高メチル化をエピゲノム編集法によって解除すると、癌細胞の増殖および腫瘍の成長を抑制できることを証明することができた。
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