研究課題/領域番号 |
20K07577
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
関田 洋一 北里大学, 理学部, 准教授 (20431950)
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研究分担者 |
松本 俊英 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (10623184)
木村 透 北里大学, 理学部, 教授 (50280962)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 脱分化 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
本研究では、がん幹細胞の発生機構を調べている。がん幹細胞の発生機構としては、現時点で2つの可能性を考慮し、研究を進めている。1つ目は、非がん幹細胞が脱分化によりがん幹細胞化するという機構、2つ目は、最近、神経膠芽腫(グリオブラストーマ)において報告された、細胞が、がん幹細胞状態と非がん幹細胞状態を遷移する機構(これをstate transitionと呼んでいる)である。 非がん幹細胞の脱分化によるがん幹細胞化の可能性を検討するため、本年度は、非がん幹細胞である乳がん由来の細胞株(MDA-MB-231)と卵巣がん由来の細胞株(OVISE)を使って、人為的にAKTシグナル経路を活性化し、がん幹細胞化が起こるかを調べた。がん幹細胞の表面抗原やスフェア形成能を調べたところ、OVISE細胞株では、AKTシグナル経路の活性化により、わずかにがん幹細胞マーカーを発現する細胞数が上昇することが分かった。しかし、がん幹細胞マーカーを発現する細胞数が少なく、それらを単離してスフェア形性能や遺伝子発現を調べることが非常に困難であった。またMDA-MB-231細胞株では、がん幹細胞マーカーを発現する細胞数はほとんど変化しなかった。 一方、グリオブラストーマの組織から樹立した培養細胞を使って、state transitionを調べたところ、がん幹細胞マーカーを発現する細胞と発現しない細胞群をセルソーターによって分離することができた。また、それらを培養したところ、それぞれからがん幹細胞マーカーを発現する細胞と発現しない細胞が生じることが分かり、私たちが使用しているグリオブラストーマ由来細胞で、state transitionを再現することができた。現在は、この細胞を使って、state transitionの分子機構の解析を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
私たちはiPS細胞を使った実験系で、AKTシグナル経路の活性化がエピジェネティックリプログラミングを促進し、細胞初期化を促進することを見出した。この知見から、非がん幹細胞でもAKTシグナル経路を活性化することで、脱分化が促進され、がん幹細胞マーカーを発現する細胞が増えるという予備的な実験結果を得ていた。しかし、マーカーを発現する細胞数が少なく、それらを解析することが困難であった。一方、同時に解析を進めていたグリオブラストーマ由来の細胞で、state transitionを再現することができた。そこで、がん幹細胞の出現機構としてstate transitionに着目し、解析を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
がん幹細胞の出現機構として、グリオブラストーマにおけるstate transitionに着目して研究を行う。まず、state transitionする細胞の割合を定量的に解析する。また、state transitionの分子機構として、エピジェネティックな制御がどのように関与しているのかを調べるため、エピジェネティック制御因子のノックアウトや過剰発現を行う。さらに、state transitionを可視化する系の構築に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの感染防止のため、在宅勤務が増えて、実験が多少遅れている。この遅れを取り戻す。また、グリオブラストーマを使った実験を開始し、これに必要となるサイトカインなどを購入する。
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