本申請課題を通して研究代表者は,三次元(3D)培養がん細胞を腫瘍モデルとし,サイトケラチンに着目した細胞死,解糖酵素タンパク質およびmRNA発現の亢進および細胞接着の観点から,腫瘍形成および悪性化に重要な因子を見出した。 最終年度は,特に膵臓がんに着目した研究を実施し,膵臓がん細胞株を3D培養すると大幅にglucose-6-phosphate isomerase (GPI)タンパク質量が増加すると見出した。また,膵臓がんや大腸がん細胞株を3D培養し,解糖系酵素のmRNA発現量を解析したところ,多くの解糖系酵素のmRNAが増加した。この中でも特に重要と考えられる因子について,前年度までに見出した解糖系酵素のアイソザイムaldolase Cおよびenolase 2に加えて,モノクローナル抗体を作製し,タンパク質レベルでの亢進を確認する足掛かりとなった。また,これまでに3D培養細胞において分解されると見出したcytokeratin 18 (CK18)について,CK18の分解が細胞死の結果であると推測し,どのような細胞死においてCK18が分解されるかを解析した。その結果,3D培養がん細胞において,特定の抗がん剤を処理した際にCK18の分解が多く観察され,これらの抗がん剤が誘導する細胞死が3D培養がん細胞内部に生じている可能性が示唆された。さらに,3D培養すると,他のサイトケラチンが大幅に増加し,このサイトケラチンに対するモノクローナル抗体を作製した。また,3D培養した大腸がん細胞にmRNAの増加が認められたHER2についてモノクローナル抗体を作製し,学術論文として報告した。 今後も3D培養膵臓がん腫瘍モデルに着目し,解糖系酵素やエネルギー代謝から薬物耐性機構に関わる重要な因子の発現解析や,3D培養がん細胞の微小環境要因の解明研究を進められると考える。
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