研究課題/領域番号 |
20K07585
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中山 瑞穂 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (20398225)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大腸がん / p53 / LOH |
研究実績の概要 |
大腸がんを誘発するドライバー遺伝子は、大規模ゲノム解析から明らかとなっている。一方で、大腸がんによる死亡要因の多くが転移や再発などによるものであるが、悪性化に関わる遺伝子については未だ不明な点が多い。申請者が着目しているp53遺伝子は大腸がんドライバー遺伝子の一つであるが、大腸がんを含む多くの悪性化がんでミスセンス変異をともなう変異型p53として発現が認められており、悪性化がんを促進する重要な遺伝子の一つと考えられている。 申請者が所属する研究室では大腸がんドライバー遺伝子の複合変異マウスを作製し、その腫瘍からオルガノイド(悪性化大腸がんモデルオルガノイド)を樹立した。それらを使った解析により粘膜化浸潤や肝臓転移など悪性化過程に必須なドライバー遺伝子の組み合わせを個体レベルで明らかにした(Sakai et. al., Cancer Research vol78. 1334-1346. 2018)。 ヒト大腸がんでは変異型p53発現腫瘍のほとんどで野生型p53欠失(LOH)が認められることから、これらの組み合わせは大腸がんの悪性化に重要なイベントであることを強く示唆している。申請者は以前にマウスの腸管腫瘍における変異型p53の獲得機能(Gain of Function)について明らかにしている(Nakayama et al., Oncogene vol36. 5885-5896. 2017)。 本研究は、そこで得た知見をもとに悪性化大腸がんモデルオルガノイドを使って人為的にp53LOHを誘導し、変異型p53の獲得機能(Gain of Function)遂行への関与を探っている。またこれらの組み合わせ(p53LOH+ミスセンス変異)が腫瘍内の細胞集団へ与える影響についても調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、これまでにp53を含む大腸がんドライバー遺伝子Apc (Apc delta716), Kras(KrasG12D), Tgfbr2(Tgfbr2 KO), p53(R270H-p53)を複合的にもつ大腸がん悪性化モデルマウスを作製し、その腫瘍からオルガノイドを樹立し悪性化に必須なドライバー遺伝子の組み合わせを明らかにした。申請者はそれらを使った解析を進め、肝臓への効率的な転移巣の形成には変異型p53発現に加え、野生型p53の欠失(LOH)が必要であることやそのメカニズムを明らかにした(Nakayama et al. Nature Communications 2020:11:2333)。 ヒト大腸がんにおいて変異型p53発現腫瘍のほとんどでLOHが認められることから、これらの組み合わせは、大腸がんの悪性化に重要なイベントであることを強く示唆している。また申請者は、変異型p53発現大腸がん細胞では、野生型p53発現もしくは野生型p53欠失(LOH)大腸がん細胞に比べ、特定のシグナルpathwayが非常に高く活性化していることを見出した。さらに、このシグナルpathwayが腫瘍内微小環境由来の物質によって活性化されることを、インヒビターやレポーターアッセイ、さらに組織化学的手法によって明らかにしている。 現在、このpathwayの活性化制御機構と変異型p53の関与について解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト大腸がんドライバー遺伝子を持つマウス大腸がんオルガノイドから樹立した細胞(AKTPR270H細胞)を用いて解析を行なっている。この細胞をもとにp53をノックアウトしたAKTPNull細胞を作製しており、この細胞に比べAKTPR270H細胞で活性化している細胞内シグナルpathwayをすでに特定している。 現在、その原因遺伝子をノックアウトした細胞を樹立中であり、これにより変異型p53による悪性化獲得機能(Gain of Function)が減衰するかどうかを検証する予定である。 野生型p53は通常MDM2などのユビキチンリガーゼによって分解されるため、常に低いレベルで保たれているが、がん特有の変異型p53タンパク質の多くは分解機構を逃れ細胞内に蓄積されており、その機構は未だ十分に理解されていない。実際の腫瘍病理組織ではp53蓄積細胞とp53-degradation(分解)細胞が混在して観察される。申請者は前述のようにAKTPR270H細胞とAKTPNull細胞間でシグナルpathway の違いを見出しており、これらの混在がどのような腫瘍内環境を形成しているのかについて解析していく。具体的にはAKTPR270H細胞すなわち変異型p53蓄積細胞に特異的に活性化しているpathwayをモニターする蛍光レポータープラスミドをそれぞれの細胞へ導入し、さまざまな条件下で培養しながらシグナルpathwayの活性化をモニターする。これにより腫瘍内での変異型p53タンパクの蓄積と細胞内pathway活性化の相関を明らかにしていく。
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