研究課題/領域番号 |
20K07586
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
村上 和弘 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (60455368)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胃がん / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
我々の体は、細胞外シグナルや細胞内分子機構によって適切な時期に規則正しく発生する。この発生過程において必須な役割を担っているのが「自己複製能」と「異なる細胞への分化能」を持つ「幹細胞」である。この幹細胞は、発生初期のみならず成体各組織にも存在し、組織の恒常性の維持および傷害からの修復に必要不可欠な役割を担っている。 一方、近年がん組織にも幹細胞様細胞が存在することが示されつつある。がん幹細胞様細胞は放射線耐性・薬剤耐性を持ちつつ、がんの転移・再発を引き起こすことから、がん幹細胞様細胞に対する効果的な治療法を確立することは喫緊の課題である。 これまでに申請者らはマウス・ヒトの胃線の底部にLgr5遺伝子を発現する胃正常組織幹細胞を同定した。さらなる解析により、一群の転写因子がこれら細胞で幹細胞性を制御していることが明らかになりつつある。驚くべきことに、それらの転写因子は胃がん細胞においても幹細胞様性質を導くことも明らかになりつつある。一連の研究結果は、正常幹細胞の生存に必須な分子機構が、がん幹細胞様細胞において利用されていることを示唆するが、その詳細は未だ明らかではない。 本研究においては、マウスとヒトの胃正常・がんオルガノイドの生体外・生体内の解析を通して正常幹細胞とがん幹細胞様細胞を詳細に比較解析し、がん幹細胞様細胞のみで特徴的な使われ方をしている分子機構を明らかにする。その知識の上で新規薬剤の探索を行い、従来とは異なる角度からがん幹細胞様細胞に対する治療法を確立することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1; 昨年度樹立した新規胃がんマウスモデルを解析することで、胃がんにおいてLgr5陽性がん細胞が幹細胞性を持っていることが明らかとなった。一方で、新規胃がんモデルマウスより胃がんオルガノイドを樹立し、分子生物学的解析を通してLgr5陽性がん幹細胞様細胞の特性を明らかにした。これらの結果は学会および論文で発表された。さらに、マウス胃がんオルガノイドを用いて得られた知見をヒトオルガノイドで検証すべく、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いて、ヒト胃がんオルガノイドのLGR5遺伝子座にEGFPおよび選択的にアポトーシスを誘導できるiCaspase9遺伝子を挿入した。これらのオルガノイドを免疫不全マウスの胃へ同所移植し、ヒト胃がんの進行過程を模倣できる同所移植系の立ち上げに成功した。 研究項目2; マウス胃がんオルガノイドを用いてSox9に制御される下流遺伝子の解析を行った。その結果、いくつかの新規がん遺伝子を発見した。また胃オルガノイドの同所移植系を用いて、生体内でLgr5陽性胃がん幹細胞様細胞におけるSox9の役割を解析した。これらの結果は学会において発表された。 研究項目3; 昨年度立ち上げた薬剤スクリーニングの基盤技術とマウス胃がんオルガノイドを用いて、胃がん幹細胞様細胞を標的とする化合物候補の絞り込みを行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1; LGR5遺伝子座にEGFPおよび選択的にアポトーシスを誘導できるiCaspase9遺伝子を挿入したヒト胃がんオルガノイドを用いて、LGR5 陽性細胞を可視化および選択的に除去することでヒトLGR5陽性胃がん細胞が幹細胞様性質を示すかどうかについて生体外で検証する。同様にヒト胃がんオルガノイドの同所移植系を用いて、ヒトLGR5陽性胃がん幹細胞が胃がんの進展にどのように寄与するか解析を行う。 研究項目2; ヒト胃がんオルガノイドを用いて、生体外・生体内で胃がん幹細胞様細胞に特徴的なSox9の下流分子機構を分子生物学的な解析を通して明らかにする。また、生体外オルガノイドおよび生体内同所移植系を用いて下流因子・メカニズムを標的をした薬剤の探索を行う。 研究項目3; 選択された薬剤候補に関して、ヒト胃がんオルガノイドを免疫不全マウスの胃へ同所移植し、生体内での薬剤の効果を検証する。
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