多種類のがんで転写共役因子YAP/TAZの異常な活性化が認められ、その活性を抑制するHippo経路の構成因子欠損マウスにおいて、種々のがんが早期から高率に発症することから、Hippo-YAP経路のがんの発症、進展における役割に注目が集まっている。本研究では、ゲノムワイドsiRNAスクリーニングにより、YAP依存的な遺伝子転写活性に強力に作用する薬剤標的分子を同定し、YAP活性を標的とした抗腫瘍薬の開発に貢献することを目指している。 YAPによる遺伝子転写の活性を感度良くモニターするレポーター細胞を用いて、ヒト全遺伝子に対するsiRNAライブラリーを用いたスクリーニングを行った。このスクリーニングにおいて、配列特異的RNA結合ドメインを持ち、mRNAの分解、翻訳抑制に働く蛋白質であるRNABPのノックダウンにより、最も強くYAPによる遺伝子転写活性が抑制された。CRISPR/Cas9を用いてRNABPを欠損させた細胞株では、YAP依存的な遺伝子転写が顕著に不活化され、RNABPの過剰発現により、YAP依存的な遺伝子転写が活性化した。また、RNABPのRNA結合能を欠いた変異体ではYAPを活性化できないことから、RNABPのRNA結合能がYAP活性化に必要であることが明らかになった。さらに、RNABPの標的遺伝子Xを同定し、RNABPによるYAP活性化が標的遺伝子Xの蛋白質発現の抑制を介していることを示した。また、結合阻害剤の探索に向け、組換え蛋白質として調製したRNABPのRNA結合ドメインと基質RNAの結合を、Alphaスクリーンにより可視化する実験系を確立した。
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