研究課題/領域番号 |
20K07591
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
鎌田 真司 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 教授 (20243214)
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研究分担者 |
岩崎 哲史 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 助教 (40379483)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞老化 / LY6D / GPIアンカータンパク質 / 空胞形成 / マクロピノサイトーシス |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者らが同定した老化細胞特異的に発現上昇する遺伝子であるLY6Dについて、その生理機能を明らかにするとともに、LY6Dを標的とした新規抗がん剤開発に向けた分子基盤を確立することを目的としている。LY6DはGPIアンカー型の細胞膜タンパク質であり、高発現によって老化細胞に特徴的な巨大な空胞を形成することを見出していた。 本年度はLY6Dが空胞形成を誘導するシグナル伝達経路を解明するため、まず、LY6DのS-S結合形成に関与することが予想されるシステイン残基をセリン残基に置換したところ、空胞が形成されなかったことからS-S結合の重要性を検証できた。さらに、LY6Dは細胞膜ラフトに存在し、Src family kinase (SFK)と多量体を形成することが明らかとなった。また、LY6Dの下流ではRasが機能する可能性が示唆されていたため、Rasの活性に重要なGly12、及び、PI3K、Raf、Ral-GEF、それぞれの情報伝達に重要なTyr40、Thr35、Glu37の変異体を作製し細胞に高発現させたところ、LY6D誘導性空胞形成にはPI3Kが重要な働きをすることが明らかとなった。一方、細胞内に空胞を形成する機構の一つとしてオートファジーの関与が示唆されているが、オートファゴソームのマーカーであるLC3の発現や、オートリソソームなどの酸性オルガネラマーカーであるLysoTrackerを用いてLY6Dで誘導される空胞と局在が一致するかどうか調べたところ、LY6Dによって誘導される空胞はオートファジーによるのではなくマクロピノサイトーシス(エンドサイトーシスの一種)によって形成されることがわかった。そして、LY6Dによって誘導される空胞は、細胞外液の取り込みに関与し老化細胞の生存に寄与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、当初次に示す実験を計画していた。(A) LY6Dが空胞形成を誘導するシグナル伝達経路の解明、として、(i) LY6Dの機能領域の解析、(ii) 細胞外から細胞内へとシグナルを伝えるタンパク質の同定、(iii) LY6Dの下流で働くRasの機能解析、(iv) Rasの下流で働きアクチンの重合を促進する分子の同定、(v) オートファジーとの関連について、である。また、(B) LY6Dが生体から老化細胞を除去するための標的分子となる可能性の検証、としては、(i) siRNA導入細胞を用いた解析、(ii) 抗LY6D抗体を用いた抗体依存性細胞傷害活性の検出、である。 以上の実験計画の中で、本年度中に成果が得られたものは、(A)(i)(iii)(v)であり、ここまでの実験結果は、原著論文(Nagano et al., J. Biol. Chem. 296, 1000049, 2021)として報告済みである。一方、現在進行中の実験計画の一つは、(A)(ii)の細胞外から細胞内へとシグナルを伝えるタンパク質の同定である。Flagタグを付加したLY6Dを細胞に高発現させ、細胞老化誘導後に抗Flag抗体で免疫沈降後、共沈するタンパク質について質量分析による同定を行った。その結果、膜貫通型受容体タンパク質の一つを同定することができ、LY6Dによる空胞形成シグナルを細胞内へと伝達する機能を持つ結果を得ている。また、(A) (iv) Rasの下流で働きアクチンの重合を促進する分子の同定、と関連して、同定した膜貫通型受容体タンパク質の下流で働き、アクチンの重合につながる分子も同定することができた。現在、詳細な解析を進めており、2021年度中に原著論文として発表する予定である。以上より、本実験計画はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、まず、当初予定していた(A) LY6Dが空胞形成を誘導するシグナル伝達経路の解明、の中で、(i) LY6Dの機能領域の解析、をさらに推進する。LY6Dはアミノ酸配列の相同性からLY6ファミリーに属している。LY6Dは5つのS-S結合で特徴付けられるLu(LY6/uPAR)ドメインを持っており、Luドメインを介して他のタンパク質と結合することが予想されている。LY6ファミリーの中には、LY6Dと同様にLuドメインを持ちGPIアンカーによって細胞膜外葉に局在するLY6E、LY6H、PSCA(prostate stem cell antigen)が存在している。そこで、LY6 E、LY6 H、PSCA をクローニングし、細胞内での空胞形成誘導能を比較解析することによって、LY6D の空胞形成に重要なアミノ酸、及び機能領域を同定する。 次に、当初予定していた(B) LY6Dが生体から老化細胞を除去するための標的分子となる可能性の検証、の中で、(i) siRNA導入細胞を用いた解析、を行う。LY6Dをノックダウンした老化細胞とノックダウンしない老化細胞の混合培養系で、LY6Dをノックダウンした老化細胞だけが特異的に除去されるかどうか調べる。また、LY6Dに対するsiRNAとコントロールsiRNAをそれぞれ異なる蛍光色素で標識し細胞に導入後、血清アルブミンを添加した低栄養培地で培養した細胞に細胞老化を誘導し、LY6Dに対するsiRNAを導入した細胞のみが除去できることを確認する。なお、低栄養培地で培養した老化細胞の生存が、培養液に添加した血清アルブミンに依存することは確認済みである(Nagano et al., J. Biol. Chem. 296, 1000049, 2021)。また、正常細胞との混合培養系でも同様な結果が得られるかどうか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナ感染拡大のため、研究室に所属する学生及び大学院生の研究活動が大きく制限された。以前と同様に研究活動を行うことができるようになったのは夏以降であり、このため消耗品費の支出が減少した。現在もコロナ感染は終息していないが、研究活動は感染に注意を払いながら行うことができているため、本年度使用額と合わせて消耗品費として使用する予定である。
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