研究課題
成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)はレトロウイルスであるHTLV-1に感染したT細胞が形質転換することで発症する予後不良の造血器腫瘍である。HTLV-1感染T細胞は数十年の潜伏期間に様々なゲノム異常、エピゲノム異常を蓄積することで、クローン性の増殖能を獲得すると考えられている。申請者等はATLの発症、病態の進展とともにHTLV-1感染細胞(ATL細胞)にDNAメチル化異常が蓄積することを見出していた。そこで、本研究では、DNAメチル化異常がどのような機序で形成されるのか、またDNA脱メチル化剤がどのように抗腫瘍効果を発揮するのかを明らかにすることを目的とした。最終年度(2022年度)ではメチル化異常を形成する機構としてメチオニン代謝に注目して研究を実施した。細胞内に取り込まれたメチオニンはS-アデノシルメチオニン(SAM)へ代謝される。SAMのメチル基がDNAやRNA、タンパク質のメチル化反応のメチル基供与体として利用される。ATL細胞をメチオニン制限培地で培養したところ、DNAのメチル化が優位に減少することを、イルミナ者のInfinium EPICを用いた網羅的DNAメチル化解析から明らかにした。また遺伝子発現についてRNA-seqにより検討したところ、コレステロールの合成や翻訳など、細胞増殖に関わる遺伝子群の発現が優位に減少していた。DNAのメチル化変化に伴い、遺伝子発現が変動したと考えられる。研究期間全体を通じて、アザシチジン、デシタビン耐性化株を樹立し、耐性化機序としてピリミジン代謝酵素の不活化がアザシチジンやデシタビンの感受性に関わることを明らかにした。さらに、メチオニン代謝の変換によりメチル基の供給を増やすとともに、メチル基転移酵素DNMT1の発現も亢進することで、ATL細胞がDNAメチル化異常の形成・維持を行っていることを明らかにした。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件)
Journal of Cancer Research and Clinical Oncology
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