研究課題/領域番号 |
20K07598
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
北島 正二朗 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任講師 (00452590)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞代謝 / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
前年度の研究実績を踏まえ、がん幹細胞の増殖制御に関わる代謝物質8種類について再現性を検討した。その中に核酸が複数含まれることを見出したことから、複数の物質ががん幹細胞の増殖制御に関して同様の作用を有している可能性が示唆された。またCE-MS質量分析計によるメタボローム解析により、それらが細胞内に取り込まれていることが確認できたほか、解糖系代謝産物やアミノ酸の増加がみられた。またメタボロームで検出される酸化ストレス関連物質を調べたところ、還元型グルタチオンや還元型NADPがやや増加していたが、有意な差はなかった。そこで活性酸素種に対する蛍光プローブを用い、細胞内酸化ストレス状態をフローサイトメーターで測定したが、これも有意な差は見られず、これら代謝物質による増殖促進において酸化ストレス応答は関与しないことが示唆された。前年度に予備的にプロテオーム解析とRNA-seq解析を行なっていたが、そのデータの概況から、今年度はタンパク質の変動により重点をおいて検討を行なうこととした。がん幹細胞の増殖に関する実験は低血清培養によって栄養ストレス状態で行っていることから、血清刺激のメディエーターであるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路の因子について調べたところ、4EBP, p70S6Kなどのリン酸化が代謝物質の投与によって上昇することが分かった。これらはPI3Kの下流に位置するmTORのターゲットで、増殖制御に直結する因子であり、同化代謝が亢進していることを示唆している。一方、RNA-seqの予備データに基づいて定量PCRで確認実験を行なったが、再現性に難があるものが多く、解析法の見直しを含めて今後より詳細な検討が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では、前年度までに絞り込まれた代謝物質群ががん幹細胞の増殖や生存を制御するメカニズムの解明を主眼としていた。その主な内容として、(A)代謝反応の促進,(B)酸化ストレス耐性,(C)遺伝子発現の調節を検討する計画であった。(A)に関してはCE-MS質量分析計を用いたメタボローム解析を行なっており、候補物質の細胞内取り込みを確認すると同時に、解糖系代謝産物やアミノ酸が変動していることを見出している。また意義は今のところ不明ながらそれ以外の物質の変動も観察しており、予想以上の成果があったと言える。(B)の一部は前述のメタボローム解析によって確認できた上、予定通り蛍光プローブを用いてフローサイトメーターで解析を実施した。還元型NADPの量的変化は観察されたものの有意差はなく、フローサイトメーターによる活性酸素検出でも有意な差は見られず、メカニズムの解明にはつながらなかったが、計画に沿った実験は実施することができた。(C)に関してはすでに前年度に少数のサンプルで予備的なRNA-seqを実施しており、今年度はそのデータを解析して遺伝子発現の網羅的解析を試みた。その結果を定量PCRによって確認したが、実験毎に結果のばらつきが大きく、サンプル回収のタイミングの検討やサンプル数を増やすなど、RNA-seqの条件を検討する必要があると考えられ、そのためプロテオームに基づくタンパク質の発現解析に重点を置いた。プロテオームデータも前年度に取得していた測定データを解析し、タンパク発現やリン酸化について整理した。そのデータに基づいてウェスタンブロット法によって確認を行なったところ、経路の全容解明には至らなかったものの、PI3K経路の活性化が見られるなどの成果を挙げたことから、概ね計画通りに進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
22年度はこれまでの成果に基づき、がん幹細胞を標的とした治療法につながる基礎研究を行う。PI3K経路などを標的とし、阻害剤とshRNAによる介入を行う。また、PI3K以外の経路や、代謝物質による遺伝子発現調節についての検索も同時に進め、順次同様の介入を試みる。がん幹細胞を選択的に抑制する場合、幹細胞性の喪失という点も重要になるため、薬剤耐性や造腫瘍性を指標に検討する。 これまでの検討は卵巣癌幹細胞様細胞を中心に行なってきたため、計画に基づき、脳腫瘍幹細胞モデルでの再現性を確認する。その中で、がん幹細胞に共通した機能を絞り込んでいく。 最後に、これまでは全て培養細胞を用いた検討であったため、免疫不全マウスを用いた動物実験を実施する。治療のターゲットとして有望な阻害剤が利用可能であれば、免疫不全マウスに腫瘍を播種した上でそれらを投与する。shRNAの場合は、あらかじめがん細胞に組み込んだ上で播種し、腫瘍形成能を評価する。 過去2年間は新型コロナウイルスの影響を受け、学会での発表を見送ってきたが、今年度は積極的に情報を発表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の進捗状況によって次年度使用額が生じていたため、次年度使用額が発生したが、額面としてはほぼ当初の計画通りとなりつつある。2022年度は最終年度であるため、速やかに執行する予定である。
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