研究課題/領域番号 |
20K07600
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
渡辺 崇 藤田医科大学, がん医療研究センター, 准教授 (10402562)
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研究分担者 |
柳 久乃 藤田医科大学, 医学部, 助教 (40868949)
天野 睦紀 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90304170)
下野 洋平 藤田医科大学, 医学部, 教授 (90594630)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / リン酸化シグナル / シグナル伝達 / 脳腫瘍 |
研究実績の概要 |
当該年度は人工脳腫瘍幹細胞をモデルとし、リン酸化プロテオミクスの手法を用いて脳腫瘍がん幹細胞の多様性と、それを制御する分子機構の解析を行なった。先行研究により人工的に作製した脳腫瘍がん幹細胞は、代謝特性が異なる2つのサブクローン(ATSとBTS)に大別できることが判明している。今回、それらのサブクローンに特徴的なリン酸化タンパク質を14-3-3用いて濃縮し、質量分析によって網羅的に同定した。その結果、ATSあるいはBTSに特徴的にリン酸化が亢進しているタンパク質を見出すことに成功し、脳腫瘍がん幹細胞の不均一がリン酸化シグナルにより制御されていることが示唆された。 得られたリン酸化タンパク質のうち、細胞運動や極性制御に関与することが知られているAktの基質Girdinに焦点を絞り、詳細な解析を進めた。14-3-3が結合するGirdinの 領域をPulldown実験により検討したところ、GirdinのC末端中、1490番目のセリン残基に14-3-3が結合することを見出した。さらに、脳腫瘍がん幹細胞内でのGirdinの機能を解析するため、Girdinの遺伝子発現を抑制したATS, BTSを樹立した。脳腫瘍がん幹細胞の自己複製能と腫瘍形成能をin vitroで検証することができるスフェア形成試験を行なったところ、ATSはGirdin の遺伝子発現抑制により影響を受けないものの、BTSではGirdin の遺伝子発現抑制よりスフェアの形成能が著しく減弱することが明らかになった。また、Girdinの遺伝子発現抑制はATSとBTSの細胞増殖あるいは、代謝特性に大きな影響を与えないことを見出している。 これらのことから、Girdinのリン酸化レベルは脳腫瘍がん幹細胞の不均一性を制御する分子機構の一端であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん幹細胞を制御するリン酸化シグナルを解明する目的で、人工脳腫瘍がん幹細胞をモデルとした研究に重点を移行した。昨年まで研究に用いてきた乳がん幹細胞と異なり、人工脳腫瘍がん幹細胞はin vitroで増殖することが可能で、生化学的なアプローチに適していた。その結果、リン酸化プロテオミクスによるリン酸化タンパク質の同定、その制御因子の遺伝子発現抑制による機能解析に成功している。現在は移植実験並びに、網羅的遺伝子発現解析などに研究を展開しており、全体としては概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に同定したGirdinを手がかりとし、人工脳腫瘍がん幹細胞の不均一性を制御するリン酸化シグナルの研究を進める。具体的にはBTS中でGirdinのリン酸化を担うキナーゼの同定を行う。また、Girdin遺伝子発現抑制したがん幹細胞をマウスに移植することによる腫瘍形成能への影響を検討する。さらには、網羅的遺伝子発現解析、1細胞遺伝子発現解析などのバイオインフォマティクス的な手法で研究を展開し、統合的に脳腫瘍がん幹細胞を制御するリン酸化シグナルの解析を行うことで、脳腫瘍がん幹細胞の不均一性を解明し、それを克服できる治療ターゲットを勘案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年度はコロナの影響で研究に様々な影響があり、一部の研究を今年度に繰り越した。その影響が残り、次年度に研究費を繰越した。昨今コロナの状況も落ち着きあり、来年度は消耗品や論文掲載費として当該予算を使用する予定である。
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