研究課題/領域番号 |
20K07612
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
河野 晋 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (30625463)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | RB / MYC |
研究実績の概要 |
これまでにがん抑制遺伝子RBの不活性化はスフェロイド形成を誘導することと、解糖系を構成する酵素Phosphoglycerate Mutase 1(PGAM1)の発現を低下させることを見出している。加えて、スフェロイド形成誘導はPGAM1欠損により起こることを突き止めている。そこで本年度では、RB不活性化による上記の現象はがん細胞特有のものかどうかを検討するために、正常乳腺上皮細胞を用いた。その結果、RB不活性化によるPGAM1の発現低下はLuminal A型乳がん細胞のみならず、正常乳腺上皮細胞でも起こることを見出した。そこで、RB不活性化による正常乳腺上皮細胞のフェノタイプを詳細に解析した。その結果、正常乳腺上皮細胞のRB不活性化により細胞膜上のβ-カテニンが細胞質に拡散することを見出した。以前の報告では、Luminal A型乳がん細胞株でRBを欠損させた場合、上皮間葉転換 (EMT)が起こることが報告されていることと、正常乳腺上皮細胞にTGF-β刺激をする際にRB不活性化しているとEMTを誘導することが報告されていた。今回、RBのacuteな欠損にではEMTが誘導されず、細胞増殖が著しく低下することを見出した。なお、γH2AXやp21などは認められずDNA損傷応答に伴う細胞老化は否定された。そこで、詳細に解析を進めると、細胞周期マーカーであるジェミニン、CDT1に加えサイクリンA、B、D、Eいずれも発現が低下していることと、p27の発現増加が認められたため、細胞はG0期で静止していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、がん細胞で観察されたRB欠損に伴うPGAM1の発現低下という現象が一般化され、正常乳腺上皮細胞でも起こりうることを見出した。当初、PGAM1発現低下は、がん細胞特異的な現象として捉えていたが、一般化されたことと、その詳細なメカニズムまで追求することができた。特に、これまでに報告されていた上皮間葉転換やDNA損傷応答に伴う細胞老化とは異なる非常に興味深いフェノタイプであった。RB不活性化は乳がんの悪性進展過程において観察されるが、発がん段階でのRB不活性化はDNA損傷により老化が誘導されるとされていたが、今回別のメカニズムにより細胞静止状態に誘導されることが判明し、RB不活性化によるがん細胞の休眠と正常乳腺上皮細胞との違いを見出した点において研究が大きく展開した。
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今後の研究の推進方策 |
正常乳腺上皮細胞におけるRBの不活性化がどのようにして細胞周期停止を引き起こすのか、そのメカニズムについて検証を進める。予備的検討では、pRAF-pMEK-pERKレベルの低下が観察されていたため、MYC発現レベルが変化していると推測される。また、正常乳腺上皮細胞にPGAM1の発現を再構成した場合に細胞周期停止がレスキューされるかどうか検討をして、PGAM1と増殖シグナルのクロスオーバーについて検討をする。また、乳がん細胞ではRBを不活性化しても細胞増殖に影響がないため、RB不活性化により得られる細胞増殖に対するアドバンテージがPGAM1発現低下により失われていると考え、そのメカニズムについて、正常乳腺上皮細胞のコンテクストと比較して検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
来年度行う研究計画を前倒しにて急遽執行したため残額調整に端数が生じた。 来年度における一般実験用試薬費として利用する。
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