これまでにがん抑制遺伝子RB1の不活性化はスフェロイド形成を誘導することと、解糖系を構成する酵素Phosphoglycerate Mutase 1(PGAM1)の発現を低下させることを見出している。加えて、スフェロイド形成誘導はPGAM1欠損により起こることを突き止めている。また昨年度、正常乳腺上皮細胞のRB1不活性化により細胞膜上のβ-カテニンが細胞質に拡散することをや、正常乳腺細胞においてRB1不活性化により細胞がG0で静止することを見出している。加えて、γH2AXやp21の誘導などは認められずDNA損傷応答に伴う細胞老化は否定された。次に、細胞が静止するメカニズムを検討し、細胞周期マーカーであるジェミニン、CDT1に加えサイクリンA、B、D、Eいずれも発現が低下していることと、p27の発現増加が認められた。そこで、本年度はそのメカニズムについて詳細に検討した。その結果、RB不活性化によりRAS-MEK-ERK経路のリン酸化が低下しており、その原因としてRAS活性が低下していることを見出した。また、RASの成熟にはパルミトイル化とファルネシル化修飾が必須であるが、farnesyltransferase (FNTB)発現がRB不活性化により低下していた。一方で、PGAM1ノックダウンも細胞増殖低下を引き起こし、RB1不活性化と類似したフェノタイプが観察された。さらに、FNTBの転写開始点上流に、KDM5D結合がChIPデータベースより判明し、RB-KDM5Aによるヒストン脱メチル化がFNTB発現を制御している可能性が示唆された。
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