研究課題/領域番号 |
20K07616
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山崎 大輔 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (50422415)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大腸がん |
研究実績の概要 |
マウス大腸がんモデルマウスにおいて、lysozyme陽性の分泌系がん細胞(以下、分泌系がん細胞)の数が、がん悪性化に伴い増えること、そしてオルガノイド培養したそれらの細胞が、オルガノイドより基底膜側へと離脱する様子が観察されたことから、分泌系がん細胞が浸潤性を持ち、がん転移を引き起こす可能性が示唆された。分泌系がん細胞が悪性化に伴いどのような分子メカニズムで生み出されたのかその経緯を明らかにするため、大腸がんモデルマウスより回収したがん細胞をオルガノイド培養し、その中から分泌系がん細胞を単離することを試みた。浸潤性の腫瘍に由来するがん細胞には培養開始当初、分泌系がん細胞が多く含まれていたため、それらを単一の細胞に分けた後、それぞれをオルガノイド培養した。しかし、培養が2週間を超えると分泌系がん細胞のマーカー分子としたysozymeの発現が急激に低下し、分泌系がん細胞の培養を維持することができなかった。そこで、がん細胞で分泌系細胞への分化を維持するのに必要なシグナルを探索することにした。分泌系がん細胞の数が大腸がん悪性化に伴い増えることから、大腸での発がんや悪性化に関与する遺伝子の中に分泌系細胞の分化に関与するものがあると考えた。実際これまでの研究から、大腸がんの約8割で変異がみられるApc遺伝子を欠損した腸上皮細胞では、lysozymeの発現が上昇することがわかっている。しかしApc遺伝子欠損細胞の中でlysozymeを発現している細胞は全体の1%以下であったため、大腸がん悪性化への寄与が報告されているSmad4遺伝子をさらに欠損させた細胞を新たに作製した。Apc,Smad4二重遺伝子欠損細胞ではそれぞれを単独で欠損した細胞よりもlysozymeの発現が高く、Smad4が分泌系がん細胞の分化に関与している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Lysozyme陽性の分泌系がん細胞が、がん悪性化に伴い生み出された経緯を知るために、分泌系がん細胞の単離、培養を試みたが、培養が長期化するなかでlysozymeの発現が低下し難航している。しかし今回先行研究の情報を元に新たに注目したSmad4遺伝子を欠損させることで、がん細胞の中でlysozymeの発現が上昇することがわかった。今後は分泌系がん細胞とSmad4の関係性に注目することで、分泌系がん細胞が生み出された経緯を調べるとともに、そこで明らかになった情報は、腫瘍組織中に存在する分泌系がん細胞を長期的に培養する方法の確立に役立つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回作製したApc,Smad4二重遺伝子欠損細胞では、lysozymeの発現が上昇していたことから、両遺伝子の欠損が他の遺伝子の発現に与えた影響を網羅的に解析し、がん細胞が分泌系細胞へと分化するのに必要なシグナル経路を明らかにする。そしてそれらのシグナルが、がん悪性化に伴いどのように変化しているのかを調べ、分泌系細胞への分化と浸潤・転移の関係性を明らかにする。そしてそれらの情報を元に、腫瘍より回収した分泌系がん細胞を長期的に培養する系を立ち上げることに取り組む。また、Apc,Smad4二重遺伝子欠損細胞の性質を、オルガノイド培養を用いて細胞レベルで明らかにすると同時に、これらの細胞を標識してマウス腸管上皮に移植し、生体内での挙動を調べ、その浸潤性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、単離・培養した分泌系がん細胞の遺伝子発現を網羅的に調べるためにマイクロアレイを利用する予定であったが、分泌系がん細胞を長期的に培養することができなかったので、解析を断念した。しかし新たに作製したApc,Smad4二重遺伝子欠損細胞が、分泌系がん細胞とよく似た挙動をとることが明らかになったので、そちら細胞の解析を優先的に行った。次年度では、Apc,Smad4二重遺伝子欠損細胞に対してマイクロアレイを利用した解析を行い、分泌系がん細胞の培養に必要な情報を収集する予定である。
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