欧米諸国の女性に罹患率の高い乳がんは、原発性乳がんに対しては様々な治療法が確立され治療効果をあげている。しかし原発巣治療後、数年から十数年後に脊椎や骨盤などに骨転移巣が高率に発生する。骨転移巣は従来の治療法に抵抗性を示すため乳がん患者の死因の大半を占めている。 骨転移巣を形成するがん細胞は、原発巣の離脱後から骨微小環境に到達するまでの間、生体防御機構に曝されているため、骨微小環境に到達できるがん細胞の数はわずかであると考えられる。我々の予備実験では、肉眼的に腫瘍塊が認められない時点(潜在期)では、骨微小環境においてがん幹細胞マーカー陽性となるがん細胞が生存していた。 一方、皮下微小環境ではがん細胞が認められなかったため、生存できなかったと考えられる。そこで我々は、潜在期では骨微小環境に到着したがん細胞を生存させるメカニズムが存在し、その後既知の増殖メカニズムにより再増殖を開始した結果、顕在化すると仮説を立てた。 そこで我々は、骨転移巣が顕在化するまでの間、骨微小環境においてがん細胞が生存すると仮説を立てた。本研究は、潜在期の骨微小環境において乳がん細胞が生存するメカニズムの解明を目的とした。独自に開発した動物モデルを用いて、潜在期および顕在期のそれぞれで、骨および皮下微小環境において乳がんが増殖する領域をin vivoで作成し、この組織中の遺伝子発現プロファイルをMicroarrayにより検索した。その結果、潜在期の骨微小環境において特異的に発現する遺伝子群を同定できた。さらに、同定された因子のsiRNA導入あるいは過剰発現したマウス乳がん細胞を樹立できた。現在、これらの細胞を用いてin vivoにおいてsiRNA導入株あるいは過剰発現株が骨微小環境において顕在化しないことを確認する実験を行っている。
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