研究課題/領域番号 |
20K07620
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
齊藤 康弘 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任講師 (30613004)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ER陽性乳がん / 薬剤耐性乳がん細胞 / アミノ酸トランスポーター |
研究実績の概要 |
乳がんは罹患数、死亡数ともに非常に高いがんであり、その70%以上はホルモン受容体であるエストロジェン受容体(ER)陽性を呈す。申請者は細胞極性タンパク質LLGL2がER陽性の乳がん細胞において異常に高発現し、栄養が限られた栄養ストレス下のER陽性乳がん細胞の増殖を亢進することを明らかにした。また、LLGL2はアミノ酸トランスポーターであるSLC7A5と結合し、SLC7A5を細胞膜へ輸送する結果、細胞内にアミノ酸のロイシンを増加させ、細胞増殖を亢進させる。さらに、LLGL2-SLC7A5経路はホルモン療法に用いられるER阻害剤タモキシフェンに対する薬剤耐性獲得においても重要であることが示唆された。この結果から、ER陽性乳がん細胞ではSLC7A5を介して取り込まれるアミノ酸がタモキシフェン耐性の誘導に重要な機能を果たしていることが示唆されるが、その詳細な分子機序は不明である。よって、本研究ではER陽性乳がん細胞におけるアミノ酸によるタモキシフェン耐性誘導の分子機序を解明し、アミノ酸の新たな生物学的機能を明らかにすることを試みた。メタボローム解析によりER陽性乳がん細胞においてSLC7A5過剰発現は必須アミノ酸を細胞内に多く取り込んでいることが示唆された。また、個々の必須アミノ酸にてタモキシフェンによる細胞増殖のレスキューを試みたところ、タモキシフェン耐性獲得には全ての必須アミノ酸が必要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SLC7A5は必須アミノ酸を細胞内へ取り込むことが知られている。本研究ではSLC7A5過剰発現細胞においてメタボローム解析を行い、SLC7A5の基質となるアミノ酸が細胞内で上昇していることを明らかにした。さらに、細胞内で上昇が認められたアミノ酸を細胞培養の培地中に過剰添加し、タモキシフェンに対する薬剤耐性を調べたところ、個々の必須アミノ酸を過剰に添加してもタモキシフェンに対する薬剤耐性は認められなかった。さらに、個々の必須アミノ酸濃度を一つずつ減少させ、薬剤耐性を確認したところ全てのアミノ酸が薬剤耐性獲得に必要であることが示唆された。現時点では薬剤耐性に重要なアミノ酸が明確ではない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果からSLC7A5によって取り込まれる必須アミノ酸は全て薬剤耐性獲得に重要であることが明らかとなった。今後はアミノ酸代謝物が薬剤耐性獲得に貢献しているかを明らかにするため、SLC7A5によって取り込まれる必須アミノ酸がどのような代謝経路を経ているのかを解析することを予定している。
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