研究課題/領域番号 |
20K07622
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
吉川 大和 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (20274227)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 癌 / HER2 / ラミニン / 細胞接着 / CD239 |
研究実績の概要 |
CD239のリガンドであるラミニンα5鎖は、β1鎖またはβ2鎖、γ1鎖と会合して、ヘテロ三量体(ラミニン-511 or -521)を形成する。β2鎖を持つラミニン-521は、糸球体基底膜を特徴付けるアイソフォームであり、糸球体基底膜のろ過機能に関わっている。糸球体の基底膜は、血液をろ過して尿を生成するフィルターとして機能する膜状の構造体あることから、その機能不全はネフローゼ症候群を引き起こす。これまでに、ラミニンβ2鎖をコードするLAMB2遺伝子の変異による先天的なβ2鎖の欠損は、神経や目の異常と尿中に蛋白を多量に漏出する重症のネフローゼ症候群を合併するピアソン症候群を引き起こすことが知られていた。最近、日本人で同定された孤発性のLAMB2遺伝子の変異では腎臓の異常(蛋白尿)だけを呈することが明らかになり、LAMB2遺伝子の様々な変異により重症度の異なる病態が発症するメカニズムの解明が求められていた。本研究では、腎臓にのみ異常をきたす変異がラミニンβ2鎖の一部に多いことに着目した。まずこれらの変異(p.R469Q, p.G699R, p.R1078C)が、古典的なピアソン症候群を起こす変異と異なり、ラミニンβ2鎖を欠損させるものではないことを見出した。さらに生化学的な解析により、その変異がヘパリン結合性およびラミニン結合性などを上昇させ、ラミニン-521によるフィルター形成を妨げることで選択的なろ過機能が失われ、血漿蛋白を漏出させる可能性を明らかにした。ラミニンβ2鎖の新たな機能を明らかにし、特定の変異がなぜ腎臓病を起こすのかというメカニズムの解明は、変異の種類に応じた症状の予測や、メカニズムに基づいた治療法の開発に繋がるものと期待されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗癌剤に対して耐性を示す癌細胞は、抗癌剤の存在下でも細胞増殖を支えるメカニズムの存在を示している。癌細胞の増殖は、細胞外基質への接着と密接な関係があり、基質接着のメカニズムも抗癌剤に対する耐性に関連すると考えられている。しかしながら、細胞の増殖と基質接着を結ぶメカニズムは十分に解明されていない。本研究では、癌細胞の増殖に関連するHER2とラミニン-511との接着に関連するCD239からなるHER2-CD239複合体に着目し、癌細胞の増殖と基質接着を結ぶメカニズムの解明を目指している。2020年度は、(1)HER2陽性乳癌細胞のラミニン-511に対する細胞接着、および(2)HER2-CD239複合体形成におけるCD239の分子基盤の解明を行なった。(1)では、接着・運動アッセイで使用するラミニン-511のコーティング濃度の決定するため、HER2陽性乳癌細胞であるSKBR3およびラミニン-511を吸着させた96穴プレートを用いて細胞接着アッセイを行った。その結果、プレートへのラミニン-511の吸着濃度は5μg/mlでSKBR3細胞の接着に十分であることが明らかとなった。(2)では、HER2-CD239複合体形成に必要なCD239の分子基盤を明らかにするため、CD239と類似の構造を持つCD146を利用して、CD239の各ドメインをCD146のドメインで置換えたキメラCD239の発現ベクターの構築を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、(1)HER2陽性乳癌細胞のラミニン-511に対する細胞接着、および(2)HER2-CD239複合体形成におけるCD239の分子基盤の解明を継続する。さらに、(3)ラミニン-511への接着におけるHER2-CD239複合体の役割、および(4)ラミニン-511に接着した細胞の増殖におけるHER2-CD239複合体の役割の解明を行う。(3)では、HER2陽性乳癌細胞の細胞表面上におけるHER2-CD239複合体の形成および複合体を介したラミニン-511への基質接着における局在を明らかにする。さらにHER2標的抗体薬を加え、HER2の機能抑制によるHER2-CD239複合体の形成および基質接着に対する作用を明らかにする。HER2はリガンドなしでも活性化し、細胞の増殖を促進する。(4)では、HER2陽性乳癌細胞の増殖におけるHER2-CD239複合体の役割を解明するため、ラミニン-511に接着させた細胞の増殖への影響を明らかにする。ラミニン-511に接着した場合、HER2がCD239とともに基質側に局在し、HER2標的抗体薬のアクセスを阻害している可能性がある。トラスツズマブの存在下で培養し、HER2標的抗体薬に対する耐性メカニズムを明らかにする。また、HER2結合部位を欠損させたΔCD239をHER2発現CHO細胞に発現させ、HER2-CD239複合体形成を阻害することで、CD239の細胞増殖における役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度をまたいで論文投稿費用が生じたため繰越金とした。2021年度に論文投稿費用として使用する。
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