研究課題/領域番号 |
20K07622
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
吉川 大和 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (20274227)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 癌 / HER2 / ラミニン / 細胞接着 / CD239 |
研究実績の概要 |
CD239のリガンドであるラミニンα5鎖は、β1鎖またはβ2鎖、γ1鎖と会合して、ヘテロ三量体(ラミニン-511 or -521)を形成する。ラミニン-511および-521の細胞接着は、主にα5鎖のC末端側に存在するlaminin globular (LG) domainによって担われており、細胞表面のCD293、インテグリン(α3β1,α6β1,α6β4,α7β1)、ジストログリカンが結合することが知られている。これまでラミニン-511および-521は、これらの受容体が発現する上皮系細胞の接着に関与し、白血球などの免疫系細胞の接着には関与しないものと考えられてきた。本研究では、HEK293細胞、組換え蛋白質、阻害機能を持つ抗インテグリン抗体により、インテグリンα4β1がラミニンβ2鎖のshort armに結合することを明らかにし。免疫系細胞の接着に関与する可能性を示した。このインテグリンα4β1に結合するとされるLDV配列は、げっ歯類ではLNドメインに、ヒトを始めとする霊長類ではLFドメインに保存されていた。げっ歯類および霊長類のLDV配列の機能を確かめるため、LDV配列を中心とした周辺のアミノ酸配列を含むペプチドを合成した。このペプチドにはラミニンβ2鎖に対する接着阻害効果があることが明らかとなった。この他の実績として、細胞透過性ペプチドであるオクタアルギニン(R8)の類似ペプチドであるオクタリジン(K8)の生物活性を評価した。その結果、オクタリジン(K8)にもオクタアルギニン(R8)と同様にヘパラン硫酸を介して細胞接着を促進し、インテグリンβ1との相互作用により細胞伸展と増殖を促進することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗癌剤に対して耐性を示す癌細胞は、抗癌剤の存在下でも細胞増殖を支えるメカニズムの存在を示している。癌細胞の増殖は、細胞外基質への接着と密接な関係があり、基質接着のメカニズムも抗癌剤に対する耐性に関連すると考えられている。しかしながら、細胞の増殖と基質接着を結ぶメカニズムは十分に解明されていない。本研究では、癌細胞の増殖に関連するHER2とラミニン-511との接着に関連するCD239からなるHER2-CD239複合体に着目し、癌細胞の増殖と基質接着を結ぶメカニズムの解明を目指している。2021年度は、(1)HER2陽性乳癌細胞のラミニン-511に対する細胞接着、および(2)HER2-CD239複合体形成におけるCD239の分子基盤の解明を継続した。さらに、(3)ラミニン-511への接着におけるHER2-CD239複合体の役割、および(4)ラミニン-511に接着した細胞の増殖におけるHER2-CD239複合体の役割の解明を行った。(1)により決定したラミニン-511のコーティング濃度を用いて、(3)および(4)を行った。HER2に対する抗体であるトラスツズマブは、HER2陽性乳癌細胞であるSKBR3のラミニン-511に対する接着および増殖に有意な影響は見られなかった。HER2は、細胞表面にホモ二量体として存在するだけでなく、HER1、HER3、HER4とヘテロ二量体を形成する。(2)では、SKBR3細胞では、HER3も含んだ複合体であることが明らかとなった。また、HER2-CD239複合体形成に必要なCD239の分子基盤を明らかにするため、類似の構造を持つCD146とのキメラCD239組換え蛋白質の発現および精製を行った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、(1)HER2陽性乳癌細胞のラミニン-511に対する細胞接着、および(2)HER2-CD239複合体形成におけるCD239の分子基盤の解明を継続する。さらに(3)ラミニン-511への接着におけるHER2-CD239複合体の役割、および(4)ラミニン-511に接着した細胞の増殖におけるHER2-CD239複合体の役割の解明を行う。これまでの研究成果により、SKBR3細胞ではHER3も含んだHER2-CD239複合体であることが明らかとなった。HER2は、HER2およびHER3だけでなくHER1およびHER4とも二量体を形成する。(1)および(2)では、HER1およびHER4が同様にHER2-CD239複合体に含まれるのかを明らかにする。(3)では、HER2陽性乳癌細胞の細胞表面上におけるHER2-CD239複合体の形成および複合体を介したラミニン-511への基質接着における局在を明らかにする。また、CD146とのキメラCD239組換え蛋白質によりHER2結合部位を同定し、HER2-CD239複合体の形成阻害が細胞増殖に与える影響を明らかにする。HER3はニューレグリンをリガンドとしていることが知られている。さらに、ニューレグリンの存在下で、HER2-CD239複合体の形成および複合体を介したラミニン-511への基質接着における影響を明らかにする。(4)では、ニューレグリンの存在下で、HER2-CD239複合体を介したラミニン-511への接着が細胞増殖に与える影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度をまたいで論文投稿費用が生じたため繰越金とした。2022年度に論文投稿費用として使用する。
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