研究課題/領域番号 |
20K07626
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
大橋 愛美 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子薬理部, 主任研究助手 (50727427)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サイクリン依存性キナーゼ / 分子標的薬 / 細胞死 / 細胞周期停止 / 低分子阻害薬 |
研究実績の概要 |
特定のがんに著効し正常細胞に殆ど影響を与えない治療標的を見出すため、39種類のヒトがん細胞株(JFCR39)のうち4種類の細胞株に選択的に細胞死を誘導し、他の細胞株には増殖抑制を起こすものの細胞死を誘導しない、海洋天然物ラメラリンNの合成誘導体Azalamellarin 4(Azalam 4)に着目した。我々はこれまでに、本化合物がin vitroでサイクリン依存性キナーゼ(CDK)を広く阻害することを示しているが、これまでに開発されたCDK阻害剤や典型的なチロシンキナーゼ阻害剤の骨格(プリン骨格、キナゾリン骨格など)とは大きく異なるため、ユニークな作用機序が期待されていた。 昨年度までに我々は、Azalam 4の増殖阻害様式が承認済みのCDK4/6標的抗がん剤とは異なる特徴をもつことを見出してきた。本年度は、Azalam 4のCDK阻害の概念実証(POC)を得る目的で、各種CDKの基質のリン酸化特異的抗体を用いて、抗がん作用とCDK阻害の関連を検討した。その結果、Azalam 4処理により、細胞死が誘導される濃度域で各種CDKのキナーゼ活性の阻害が確認され、アポトーシスマーカーであるPoly (ADP-ribose) polymerase (PARP)やProcaspase 3の断片化が認められた。 さらに、マウスゼノグラフトモデルにおいて顕著な抗腫瘍効果が示されたヒト脳腫瘍細胞株SNB-75(上述4細胞の1つ)の腫瘍では、Azalam 4投与により細胞増殖が抑制され、アポトーシスが誘導されることが免疫組織染色によって確認された。 以上の結果から、Azalam 4は細胞レベルで強力なPan-CDK阻害活性を発揮する新しいクラスのCDK阻害剤であり、細胞選択的にアポトーシスを惹起することで抗がん活性を示す有力な抗がん剤候補化合物として今後のさらなる研究の進展が期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、in vitroでPan-CDK阻害活性を示したAzalam 4が、4細胞特異的に細胞死を起こすメカニズムにおけるCDK阻害の関与を検討することを目的とし、各種CDKの基質となるタンパク質のリン酸化に対する影響について、リン酸化特異的抗体を用いたウエスタンブロット法により精査した。Azalam4はCDK4/6の基質であるRbタンパク質や、CDK7/9/12/13の基質であるRNA polymerase II複合体の最大サブユニットRpb1のC末端ドメイン(CTD)のYSPTSPSからなる繰り返し配列の脱リン酸化を起こし、アポトーシスのマーカーであるPARPやProcaspase-3の断片化が認められたことから、Azalam4によるアポトーシス誘導時、がん細胞内で広くCDKサブタイプの活性が抑制されているものと考えられた。一方、Rb遺伝子を欠失するSNB-75細胞でも細胞死を起こすこと、CDK4/6特異的な阻害剤であるPalbociclibは上記4細胞にはアポトーシスを起こさないことから、Azalam4による細胞選択的な細胞死誘導におけるCDK4/6阻害の寄与は少ないものと予想された。 さらに、Azalam4によるin vivo抗腫瘍効果とアポトーシス誘導の関連を検討する目的で、マウスゼノグラフトモデルにおいて顕著な抗腫瘍効果が示されたヒト脳腫瘍細胞株SNB-75の腫瘍組織切片を作成し、免疫組織染色を行った。Azalam4投与群の腫瘍組織では、コントロール群に比べて細胞増殖を示すKi67陽性細胞数が有意に減少し、Caspase 3陽性細胞数が有意に増加した。 以上の結果から、Azalam 4はin vitro、in vivoともに細胞選択的にアポトーシスを惹起することで抗がん活性を示すことが実証された。以上のように、本研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
Azalam 4がどのような分子機序で「4細胞特異的な細胞死」を誘導したのか、「4細胞特異的な細胞死」に「特定のCDKアイソフォーム阻害活性」が関与するのかを明らかにすることを目的とする。目的達成のため、CDKアイソフォームに対する阻害プロフィールが異なる市販のCDK阻害剤をできるだけ多く入手し、JFCR39がん細胞パネルに対する細胞死誘導プロフィールがAzalam4と類似する阻害剤を検索する。また、候補標的CDKアイソフォームの発現抑制試験を行い、アポトーシス誘導への各アイソフォームの関与を推定する。薬剤処理後の遺伝子発現変動を解析し、パスウェイ解析などの手法によりその分子機序を推定する。 JFCR39細胞株について取りためたオミックスデータ(遺伝子変異、遺伝子発現、蛋白質発現)を利用して、細胞死を起こす細胞株に共通して認められる遺伝的な特徴を見出す。また、見出した遺伝的な特徴と細胞死との因果関係を実験的に明らかする。 Azalam 4によるin vivo抗腫瘍効果と作用機構の概念実証がヒト脳腫瘍細胞株SNB75以外でも得られるか、残り3つの高感受性細胞についても順次検証する。
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