研究課題
我々はこれまでに、腫瘍組織中のごく一部にのみ存在し腫瘍の発生および維持に対して必須の働きを行うがん幹細胞(CSC)を制圧するための治療法開発研究を行ってきた。その中で、特にCSCと分化誘導させた同一遺伝子をもつCSC (non-CSC)との比較を中心に研究を行ってきた。本課題の初年度では、高いOXPHOSがグリオーマ幹細胞(GSC)の生存に寄与していること、細胞内脂肪酸蓄積がCSCの幹細胞性維持に必須であることという、CSC/GSCにおける複数の代謝の高活性化を明らかにしてきた。このような背景の中我々は、本課題2年目において、葉酸代謝の拮抗薬であるメソトレキセート(MTX)並びにペメトレキセド(PEM)が正常細胞に影響を毒性を示さない濃度域でGSCを選択的に殺傷することを明らかにした。しかしながら、in vivoモデルにてMTX単剤投与では生存期間の延長効果は非常に弱く、MTX投与にて腫瘍内のGSC数を減少させることができなかった。一方でMTX/PEMの標的因子であるDHFR、MTX/PEMの細胞内取り込みに必須なトランスポーターであるRFC-1がnon-GSCと比較してGSCで高発現しており、これらの発現がMTX/PEMのGSC選択性に寄与していることを明らかにしたことから、これまでに我々が見出したGSC分化誘導薬CEP1347とMTXを併用させたところ、単剤と比して生存期間の延長が確認された。この結果から、葉酸代謝はGSCの生存に必須であり分化誘導と葉酸拮抗の併用がGSC排除の新規かつ有望なアプローチであることを報告した。本年度は、その他の研究も含めて5報の論文を国際誌に発表することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
申請時点で得られていた予備的知見をさらに発展させ、本年度では新たに葉酸代謝経路を標的としたMTX/PEMがGSC選択的殺傷薬として治療有効性が高いこと、さらに、このGSC選択的殺傷薬とこれまでに我々が提唱してきたがん幹細胞分化誘導療法との併用が、GSC排除に有効である可能性を初めて見出した。加えてCSCとnon-CSCの差分から、さらなる選択的抑制薬および標的因子を既に各々複数見出すことに成功し、現在これらの評価を鋭意研究中である。以上の研究活動を総合的に判断すると、当初の計画以上に進行していると考えられる。
現在、数種類のGSC/non-GSCの比較から、GSC選択的阻害(殺傷、増殖抑制、及び分化誘導)作用を有する薬剤を複数見出し、その過程で、特異的に発現するタンパク質をいくつか同定している。これらの評価を現在in vitro並びにin vivo実験を用いて行っており、引き続き、さらなる試験を行う予定である。
(理由)現在、見出した薬剤およびタンパク質のin vivoでの効果を検証するためにヌードマウスを用いた実験を行いつつあるが、これらin vivo実験は長期に渡って経過観察や薬剤投与を行うことから、飼育費や薬品などに費用が必要なため。(使用計画)上述したように、現在進行中のin vivoマウスモデルを用いた実験に必要な投与薬剤や飼育料・技術料として使用する予定である。また、さらなる成果報告のための論文掲載費としても使用する予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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