研究課題
本研究の目的は、肺癌においてITGA2とITGA5が治療標的となるか解明することである。昨年度は、肺癌の臨床検体およびTCGAデータベースの肺癌症例を解析し、ITGA2、ITGA5は両者とも高発現群で術後再発を多く認めた。また、ITGA2では肺癌細胞株であるH522細胞とH661細胞、ITGA5はH522細胞とH2170細胞にそれぞれレンチウイルスベクターを用いて強制発現細胞株を作成し、細胞面積の増加、細胞外基質リガンドへの接着能、遊走能の亢進を認め、細胞増殖能と浸潤能の亢進は認めなかった。今年度はITGA2の免疫染色を行い、定量的PCR高発現・低発現3例ずつ染色した。その結果、免疫染色によるタンパク発現量は定量的PCRの発現量と同様の傾向を認めたものの、有意差は認めなかった。また、ITGA2、ITGA5それぞれに対する抗体-薬物複合体を用いて各タンパクを高発現する肺癌細胞株の抑制を試みた。しかし、様々な条件検討にも関わらず、ITGA2、ITGA5低発現株と比較して強制発現株の特異的な細胞死が見られず、機能解析に至らなかった。そこで、ITGA2に対して阻害薬であるE7820を用いた。その結果、ITGA2の強制発現で認めた細胞面積の増加、細胞外基質リガンドへの接着能の亢進、および遊走能の亢進がそれぞれ抑制され、ITGA2強制発現による肺癌細胞株の悪性度の亢進は確かにITGA2の作用によることが示された。まとめ:ITGA2、ITGA5を高発現する肺癌細胞株に対する抗体-薬物複合体は特異的な効果が見られなかったが、ITGA2阻害薬であるE7820はITGA2の強制発現による悪性化の亢進を抑制した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的とは、①免疫染色においてITGA2、ITGA5の高発現は予後不良であることを確認する、②ITGA2とITGA5が肺癌細胞の悪性度に寄与するか解析する、③肺癌細胞株で抗ITGA2治療および抗ITGA5治療の抗腫瘍効果を確認する、④in vivoで抗ITGA2治療および抗ITGA5治療の抗腫瘍効果を確認するの4点である。昨年度は、4つの目的のうち2つを概ね完了させ、当初の計画以上に進展していた。今年度はITGA2とITGA5で目的③を進めたものの、抗体-薬物複合体は特異的な効果が得られず、ITGA2阻害薬であるE7820を用いて悪性化の抑制を認め、全体として当初の予定通りの進捗状況となっている。
まずはITGA2の免疫染色が定量的PCRの結果を反映するかを確認する。免疫染色が定量的PCRの結果を反映したらE7820を用いてマウスモデルを用いた治療効果を検証する(目的④)。また、今までのin vitroのデータをまとめて論文発表する予定である。
前年度の支出額が交付額を大きく超えたため、今年度は支出を抑えて研究を行った。再び黒字に戻ったため、今年度は免疫染色および動物実験の研究を進める予定であり、翌年度分として請求した助成金と合わせた金額が必要である。
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