研究課題
昨年度には、大腸がん細胞において、RNA脱メチル化修飾酵素の一つであるFTOがPD-L1の発現に影響を与えることを明らかにした。本年度は、この現象が他のがん種においても当てはまるかを検討した。胃がん、食道がん細胞のPD-L1発現を、様々なヒトがん細胞株を用いてスクリーニングした。結果、胃がん、食道がん細胞株ともに、PD-L1発現は細胞株によって異なっていた。全体として、胃がんに比べ、食道がんでは、高いPD-L1発現を示すものが多かった。食道がん細胞株において、FTOの発現をSiRNAにより低下させたが、PD-L1の発現はほとんど変わらなかった。よって、がん種によりFTOのPD-L1発現への関与は異なる可能性が示唆された。一方、FTO以外のエピトランスクリプトームに関わるRNA脱メチル化修飾酵素、メチル化修飾酵素、Readerと呼ばれる蛋白群の発現を、様々な胃、食道がん細胞株で検討したところ、FTOの発現は低いが、他のものは高いものなど、多様な結果であった。脱メチル化修飾酵素とメチル化修飾酵素の発現が逆相関しているものも複数認めた。これらより、特定のがん種においても、どのようなエピトランスクリプトーム関連分子がその細胞の特性に関連するかは異なることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度、大腸がんにおいてエピトランスクリプトームが免疫チェックポイント分子発現に影響するという大きな知見を得ることができた。今年度は、それを他がん種でも当てはまるか検討できた。がん種によって、これらの関連は異なることが明らかになった。一方、エピトランスクリプトーム関連分子の発現を、より網羅的に検討することで、同一がん種内でもエピトランスクリプトーム関連分子の発現が異なるという知見を得られた。
今後、FTO以外も含めたエピトランスクリプトーム関連分子と、またPD-L1以外の免疫チェックポイント分子の関連を検討する。広く両者を検討することで、エピトランスクリプトームと免疫チェックポイント分子の関連の全体像の把握を目指す。
今年度は新型コロナ感染症の影響により、予定していた出張を行わなかったため繰越分が発生した。
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Biochem Biophys Rep.
巻: 30 ページ: 101246
10.1016/j.bbrep.2022.101246