研究課題
本研究は、RNA修飾であるエピトランスクリプトームが免疫逃避機構を担う免疫チェックポイント分子に与える影響を明らかにすることで、がんの免疫逃避の制御機構を解明することを目的とする。ヒト大腸がん細胞株を用いた検討で、マイクロサテライト不安定性を有する細胞株であるHCT-116は、免疫チェックポイント分子であるPD-L1発現が他の細胞株と比べ亢進していた。本細胞において、代表的なRNA修飾であるN6メチルアデノシン(m6A)の脱メチル化酵素であるFTOの発現を抑制することで、PD-L1発現の低下を認めた。またm6Aのモノクローナル抗体を用いた免疫沈降の実験で、PD-L1のmRNAがm6A修飾を受けていることも確認した。これらより、免疫チェックポイント分子であるPD-L1発現が、RNA修飾により制御され得ることを明らかにできた。FTO以外にエピトランスクリプトームに関わるRNA脱メチル化修飾酵素や、その他メチル化修飾酵素、Readerと呼ばれる蛋白群が知られている。また腫瘍細胞に発現しうる免疫チェックポイント分子には、PD-L1以外に、PD-L2、TIM-3、Galectine-9はじめ様々な分子がある。次に様々な胃がん、食道がん細胞株を用いてこれらの発現解析を行った。その結果、FTOの発現が低い一方、ALKBH5発現が高いもの、これら脱メチル化酵素発現は低いがメチル化酵素発現が高いものなど、各々の特徴があることを確認できた。また免疫チェックポイント分子については例えば食道癌においてPD-L1発現は強弱はあるがほとんどの細胞株で発現を認めた。一方、PD-L2は一部の細胞で発現を認める結果だった。本研究では、大腸がんにおいてPD-L1がエピトランスクリピトミックな制御を受けることを明らかにしたとともに、各がん種において今後詳細な個別の検討が重要になることが示唆された。
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