がん治療において、転移の早期発見および治療は非常に重要である。がんの転移メカズムの解明や転移マーカーの探索は古くから行われており、一定の成果をあげてきたが、転移性がんを克服できるまでには至っていない。 本研究ではがん細胞が転移能を獲得した際に細胞表面に出現する構造を同定するため、ヒト骨転移性肺がん細胞(ヒト肺がん細胞をマウスに移植し、マウス体内で骨転移した細胞株)を抗原とし、モノクローナル抗体の作製(ショットガン法)を行った。そして転移能を獲得した肺がん細胞の細胞表面を特異的に認識するモノクローナル抗体を多数樹立した。それらのモノクローナル抗体は免疫用抗原として用いた転移性肺がんだけでなく、他の転移性がんも認識し、転移性がんに共通した抗原が存在することが示された。また、樹立したモノクローナル抗体群は生きた状態のヒト骨転移性肺がん細胞表面に結合できることから、抗体医薬品シーズとしても有用であること考えられた。 次にそれらのモノクローナル抗体を使い、ヒト骨転移性肺がん細胞膜画分抽出液から免疫沈降を行ったところ、SDS-PAGEにおいて、抗体特異的に沈降するタンパク質が検出された。そこで、そのタンパク質をゲルから切り出し、質量分析したところ、抗原の候補となる膜タンパク質を同定することが出来た。また、その膜タンパク質はモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングの解析から、糖鎖修飾されており、抗体の認識に糖鎖修飾が必須であることを明らかにした。
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